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介護情報・コラム

50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化の方針|事業場における対応のポイントを弁護士が解説

2025/02/26

50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化の方針|事業場における対応のポイントを弁護士が解説

厚生労働省の検討会において、50人未満の事業場においても、将来的にストレスチェックを義務化する方針が示されました*1。
ストレスチェックが完全義務化された場合は、小規模な介護事業所においても、ストレスチェックを適切に行うことができる体制を整える必要があります。

本記事では、ストレスチェックが完全義務化の方向に向かっている理由、実際にストレスチェックを行う際の手順や注意点などを解説します。

ストレスチェックとは?

「ストレスチェック」とは、事業者が労働者に対して行う、心理的な負担の程度を把握するための検査です。

長時間労働や業務上のプレッシャーなどによって、労働者には大きなストレスがかかっているケースがよくあります。ストレスを放置すると、労働者がうつ病などの精神疾患を発病し、休職せざるを得なくなってしまうかもしれません。

このような事態をできる限り未然に防ぐため、一定規模以上の事業場においては、定期的にストレスチェックを行うことが義務付けられています。

ストレスチェックに関する現在の法規制

労働安全衛生法では事業者に対して、常時使用する労働者につき、1年以内ごとに1回の定期ストレスチェックの実施を義務付けています(労働安全衛生法66条の10、労働安全衛生規則52条の9)。

ただし特例により、常時使用する労働者の数が50人未満の事業場においては当分の間、ストレスチェックの実施義務が免除され、努力義務にとどまるものとされています(労働安全衛生法附則4条)。

厚生労働省の検討会の中間とりまとめ|ストレスチェック完全義務化の方針*1

厚生労働省が設置している「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」は、2024年11月1日に中間とりまとめを公表しました。

同検討会の中間とりまとめにおいては、現状では実施義務が免除されている常時使用する労働者の数が50人未満の事業場においても、将来的にはストレスチェックの実施を義務付ける方向性が示されました。
その理由として、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することの重要性は、事業場規模に関わらないことなどが挙げられています。

義務化の影響

ただし、ストレスチェックの実施が完全義務化されると、小規模な事業場においては実施体制の整備やコストなどに関する負担が発生します。
中間とりまとめにおいては、事業場に即した現実的で実効性のある実施を求める旨、十分な支援体制の整備を図るべき旨、実施結果の労働基準監督署への報告義務を課さない旨など、小規模な事業場への配慮が示されています。

ストレスチェックの実施方法

介護事業者がストレスチェックを実施する際には、厚生労働省のマニュアルが参考になります。法令およびマニュアルに準拠して、事業場の実態に即した形でストレスチェックを導入しましょう。

マニュアル

厚生労働省は、事業場において実施するストレスチェックについて、実施方法等を示したマニュアルを公表しています*2。

さらに、事業者が円滑にストレスチェック制度を導入できるように、ストレスチェックの受検や結果出力、集団分析ができる「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」が無料で配布されています*3。

実施マニュアルおよび実施プログラムを活用すれば、将来的にストレスチェックが完全義務化された場合に、小規模な事業場でもスムーズにストレスチェック制度を導入することができます。
ストレスチェック制度の導入が必要になった際には、最新版の実施マニュアルと実施プログラムをご活用ください。

実施手順

厚生労働省のマニュアルによれば、ストレスチェック制度に基づく取り組みは次の手順で実施するものとされています*2。

  1. 労働者への説明や周知を目的として、ストレスチェック制度に関する基本方針を表明します。
  2. 衛生委員会等において調査審議を行い、その結果を踏まえてストレスチェック制度の実施方法等を規程として定めます。
  3. 医師等によるストレスチェックを行います。結果は医師等から直接本人に通知します。
  4. ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定された労働者については、本人から申出があった場合は医師による面接指導を実施します。事業者は、面接指導を行った医師から意見を聴取し、必要に応じて労働時間の調整など適切な措置を講じます。
  5. ストレスチェックの結果を一定規模の集団ごとに集計・分析し、その結果を勘案したうえで、必要に応じて適切な措置を講じます。

注意点

事業者がストレスチェックを実施する際には、労働者のプライバシー保護などの観点から、特に以下の各点に注意しましょう。

  1. ストレスチェックを実施するのは医師等
  2. ストレスチェックの調査票は、医師等の実施者が回収する
  3. ストレスチェックの結果を提供してもらうには、労働者の同意が必要

ストレスチェックを実施するのは医師等

ストレスチェックの実施者は、以下のいずれかの者(=医師等)から選任しなければなりません(労働安全衛生規則52条の10第1項)。

  • 医師
  • 保健師
  • 厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師

医師等でない者がストレスチェックを実施することはできない点に注意しましょう。

また、ストレスチェックを受ける労働者について人事権を持つ者は、ストレスチェックの実施の事務に従事できません(同条2項)。
人事権とは、解雇・昇進・異動に関する直接の権限をいいます。

ストレスチェックの調査票は、医師等の実施者が回収する

ストレスチェックの際に労働者へ配布する調査票(質問票)は、実施者である医師等、またはその補助をする人(=実施事務従事者)が回収しましょう。
第三者や人事権を持つ者は、労働者が記入した調査票の内容を閲覧してはいけません。

ストレスチェックの結果を提供してもらうには、労働者の同意が必要

ストレスチェックの結果は、事業者が労働時間の調整などを行う際の参考になります。

ただし、事業者が医師等からストレスチェックの結果を提供してもらう際には、事前に書面または電磁的記録で労働者本人の同意を得なければなりません(労働安全衛生法66条の10第2項、労働安全衛生規則52条の13第1項)。

また、事業者がストレスチェックの結果の提供を受けた場合は、検査結果の記録を作成して5年間保存する必要があります(労働安全衛生規則52条の13第2項)。
記録の保存に当たっては、労働者のプライバシー情報が流出しないように、鍵やパスワードなどを用いて厳重に管理しましょう。

まとめ

常時使用する労働者が50人未満の事業場においては、現時点ではストレスチェックの実施が努力義務にとどまっています。
しかし、今後は小規模な事業場でもストレスチェックの実施が完全義務化される可能性があります。

ストレスチェックは、労働者に過重な負荷がかかっていないかどうかを把握し、必要に応じて業務調整などを行うために役立ちます。
特に介護業務は、従事者に大きな負荷がかかるものです。定期的にストレスチェックを行い、従業員が辛い状況に陥っていないかどうかをチェックしましょう。

参考文献

*1 厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ」p8
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001323707.pdf
*2 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」p8
https://www.mhlw.go.jp/content/000533925.pdf
*3 厚生労働省「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム ダウンロードサイト」
https://stresscheck.mhlw.go.jp/
【執筆者】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
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