看護師や介護士の方は、深夜の勤務シフトに入ることもあります。
このような過酷な勤務体制では、体力の維持や健康管理が一層重要となります。
特に、食事と生活習慣の管理は、夜勤に従事する人々にとって大きな課題です。
夜勤や交代勤務の際には、その仕事の大変さはもちろん、食生活や生活習慣も通常とは異なるリズムとなります。
どのような食べ物を、どのようなタイミングで食べるのが良いのかと、食事について悩むことも多いのではないでしょうか。
加えて、夜勤後のリカバリー方法についても適切なアプローチを知っておくことは役立つでしょう。
今回の記事では、ガイドラインや文献も参考にして、夜勤・交代勤務の方に役立つ食事や生活習慣についてアドバイスをしたいと思います。
– 目次 –
深夜勤務者の食事に関する問題
筆者は医師として、健康診断の問診や診察の仕事をしています。
特に、深夜勤務者や交代勤務者の健康管理において、食事が与える影響を強調することが重要だと考えています。
健康診断の受診者の中には夜勤・交代勤務の方もいらっしゃいます。
健康診断を受けにくる深夜勤務の方から、質問も多く聞かれます。
彼らからよく聞かれるのが、「深夜勤務のシフトに変わったが、どのような食事をとるべきか?」という質問です。
このような質問は、深夜勤務が体にどれだけ影響を与えるかを反映しており、適切なアドバイスが必要です。
実際に、海外でも深夜勤務を含む、いわゆる交代制勤務の方の職に関する問題は共通のようです。
例えば、オーストラリアで、交代シフトや不規則シフト、夕方・午後・朝シフト、分割シフトなどの労働者について調べた研究があります。
深夜勤務者の方も、このようなシフト労働者の中に含まれると考えてよいでしょう。
この研究によれば、交代勤務者は昼間の勤務者に比べて、中性脂肪(トリグリセリド)値の上昇、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール値が低くなってしまうなどの、心血管代謝リスク因子が高いとされています。
これらのリスクは、適切な食事とライフスタイルの調整により軽減できる可能性があります。
また、一般の労働者よりも、交代制勤務の方はメタボリックシンドロームや肥満などの慢性疾患の発症率とリスクが高くなっています。
そして、夜勤は、糖尿病、血圧、乳がん、心臓病のリスク増加と関連しています。
このため、深夜勤務に従事する方々が健康を維持するためには、日々の生活習慣を見直すことが不可欠です。
もちろん、食事だけではなく、交代勤務に伴う睡眠の質の低下なども影響していることが確認されています。*1
少々怖いことを述べてしまいましたが、こうした問題を解消したりリスクを下げるために、食事内容に気を付けることが有効である可能性はあります。
日々の小さな努力と工夫が、健康リスクを大きく軽減する可能性を持っています。
具体的には、適切な栄養摂取と生活習慣の見直しが、これらのリスクを軽減するために非常に重要です。
深夜勤務者の食事についてのアドバイス
さて、ここからは医師の視点から深夜勤務をする場合の食事についてアドバイスしていきますね。
深夜勤務は体に大きな負担をかけることが多いですが、適切な食生活を心がけることで、その影響を軽くすることが可能です。
特に、摂取エネルギーを適切に保つことや、消化に良い食品を選ぶこと、そして生活リズムを整えるためのコツに焦点を当てていきます。
深夜勤務前の食事
深夜勤務の前には、通常の朝食をイメージした食事をとるようにしましょう。*2
ポイントとしては、以下の3点があります。
- エネルギー源となる炭水化物をしっかりとること。
- 魚や肉、卵などのタンパク質を含む食品をとること。
- 野菜は片手のひらに乗るくらいの量をとること。
具体的には、タンパク質(サケやマグロ、肉そぼろなどのタンパク質の具材が入っているおにぎりや、卵やハム、ツナなどが具材となっているサンドイッチを選ぶと良いでしょう。
深夜勤務中の食事
深夜勤務中に食事をとる際には、エネルギーは400kcalを目安にしましょう。*2
成人の方が1食でとる摂取エネルギー量としては、少な目だと感じるかもしれません。
しかし、これくらいのエネルギー摂取量が、夜勤中には適切です。
内容としては、炭水化物に偏らないよう、炭水化物や野菜を組み合わせるような食事をとりましょう。
例えば、ざるそば+ゆで卵、温泉卵、パスタサラダ、サンドイッチ+野菜スープなどがあります。
砂糖が多く含まれる食品(甘いお菓子やデザートなど)や食物繊維が乏しい炭水化物商品(菓子パンなど)の食べ過ぎは避けるようにします。*3
ついつい「疲れた時には甘いもの」として糖分をたくさん摂ってしまいたくなることもあるでしょう。
しかし、こうした食品は眠気を増してしまうことがあります。
特に、もともと眠い時や注意力を要する作業などに携わる場合には、砂糖や炭水化物のとりすぎには注意したいものです。
また、油分や塩分の多いスナック菓子は避けましょう。
深夜勤務後の食事
勤務後は、もう朝食や昼食の時間になっていることでしょう。
帰宅後、食事をしてからすぐに寝る場合には、軽めで消化に優しい食事を心がけましょう。
例えば、グラタンや煮物、シチューなども消化が良いメニューになります。*1
また、温かいスープや蒸し野菜、さっぱりとした魚料理が良いでしょう。
これにより、胃腸の負担を軽減し、リラックスして眠りにつくことができます。
深夜勤務後に重い食事を摂ると、消化に時間がかかり、質の良い睡眠が妨げられることもありますので、気を付けましょう。
夕勤後の食事
夕方から仕事が始まり、深夜に勤務がある方もいらっしゃるでしょう。
その場合には、帰宅後にはなるべく睡眠を優先するようにし、食事量は少なめにしましょう。
そして、起床後には普段通りの食事をとるようにしましょう。
生活リズムを整えるために
深夜勤務後は、できるだけ早くリラックスして眠りにつくことが重要です。
そのためのポイントを述べていきます。
水分をしっかりととる
夜勤後は水分補給も欠かせません。
カフェインやアルコールは避け、ハーブティーや温かいミルクなどのリラックス効果のある飲み物を取り入れると良いでしょう。 また、温かいハーブティー(カモミールやペパーミントなど)はリラックス効果があり、眠りにつきやすくなります。
リラクゼーション
以下のようなリラクゼーション方法を行うと、スムーズに眠ることができるでしょう。
- 軽いストレッチ: 筋肉をほぐす軽いストレッチは、身体の緊張を解き、リラックスを促進します。
- リラックスできる音楽: 静かな音楽や自然音を聴くことで、心を落ち着け、眠りやすい状態を作り出します。
- アロマセラピー: ラベンダーやカモミールの香りには、リラックス効果があり、質の良い睡眠をサポートします。
まとめ
深夜勤務は心身に負担をかけることが多いですが、食生活を見直すことでその影響を軽減することができるでしょう。
エネルギーを持続させる食事、消化に優しい食品の選択、そして生活リズムを整えるための工夫を取り入れることで、より健康的な勤務を実現しましょう。
今回の食事の内容は、東京労災病院治療就労両立支援センターの食生活ブックを参考にしました。
こちらも、ぜひ参考にしながら、自分に合った食生活を見つけてみてください。
- *1 Phoi, Y.Y.; Keogh, J.B. Dietary Interventions for Night Shift Workers: A Literature Review. Nutrients 2019, 11, 2276. https://doi.org/10.3390/nu11102276
- https://www.mdpi.com/2072-6643/11/10/2276
- *2 深夜勤務者のための 食生活ブック|東京労災病院治療就労両立支援センター p.5-6
- https://www.tokyor.johas.go.jp/data/yobou/%E6%B7%B1%E5%A4%9C%E5%8B%A4%E5%8B%99%E8%80%85%E9%A3%9F%E7%94%9F%E6%B4%BB%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF.pdf
- *3 Module 9. Coping with the Night and Evening Shifts, Diet Suggestions for Night-Shift Nurses | NIOSH | CDC
- https://www.cdc.gov/niosh/work-hour-training-for-nurses/longhours/mod9/08.html
nishicherry2480(本名:木村香菜)
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。