介護スタッフや看護師の皆さんは、毎日の業務で何度も手を洗ったり、アルコール消毒をしたりすることが当たり前になっています。
そのため「手が乾燥してカサカサする」という不快感や、指のひび割れに悩まされている方も多いのではないでしょうか。
手洗いや手の消毒は、感染予防のために欠かすことのできないものです。
その一方で、代償として手が乾燥してしまうのもまた事実です。
手荒れはただの不快感だけにとどまらず、放っておくと、仕事に支障をきたしたり、感染リスクが高まってしまうこともあります。
そこで、この記事では、手荒れが引き起こる原因とそのメカニズムを医師の視点からわかりやすく説明します。
さらに、すぐに取り入れられる具体的なケア方法もご紹介します。
手をしっかり守りながら、快適に働くためのヒントが満載ですので、ぜひ参考にしてください。
– 目次 –
手が乾燥する原因とは?
医療現場や介護の現場では、頻繁な手洗いと消毒が日常の一部になってることも多いのではないでしょうか。
そのため、どうしても手の乾燥が起こりやすくなってしまいます。
ここでは、看護師や介護士の方を含む医療従事者が直面する、手の乾燥の原因をわかりやすく解説していきます。
手洗いの繰り返し
手を何度も洗うと、皮膚に本来備わっている油分や保護物質が失われます。
これにより、皮膚が乾燥し、ひび割れや亀裂といういわゆる「あかぎれ」や「ひび」という状態になりやすくなります。
特に、洗った後乾燥するまでに水分が蒸発し、さらに乾燥が進んでしまうこともあります。*1,2
刺激の強い石鹸や洗剤の使用
強い成分を含む石鹸や洗剤は、手に刺激を与えやすく、皮膚の保湿成分を奪い取ってしまいます。
防腐剤やアルコールを多く含む消毒剤も同様です。頻繁に使うことで、手の乾燥が進行します。*1,2
冷たい水での手洗い
冷水で手を洗うことは、さらに乾燥を悪化させる原因になります。
低い温度や寒い環境で働く方は特に乾燥しやすく、手がカサカサしてしまうことが多くなります。*1
湿疹になったことがある
子供の頃に、湿疹になった経験がある方は、大人になってからも皮膚炎や湿疹になりやすくなることがあります。
また、もともと敏感肌の方や、アトピー性皮膚炎がある人も、皮膚炎になるリスクが高まります。*3
手荒れが進行するとどうなるのか?
乾燥が進行すると、単なる不快感だけでは済まされなくなります。
最初は乾燥してカサカサする程度でも、放っておくとあかぎれになったり、赤く腫れたりします。
さらに進行すると、刺激性接触皮膚炎と呼ばれる状態になります。*4
そして、こうした状態になると、かゆみや痛みが伴います。
ここでは、手荒れが進行するとどのような問題があるのかを説明しましょう。
皮膚のバリア機能の低下
手の乾燥や刺激によって、皮脂や保湿成分が失われ、皮膚のバリア機能が弱くなります。
皮膚のバリア機能が低下すると、外部からの刺激に対する防御が弱くなり、無防備な状態になります。
これにより、さらに感想が悪化し、湿疹やかゆみ、ひどい場合には炎症を引き起こすこともあります。
場合によっては感染のリスクも増加します。*5
作業効率の低下
ひび割れた手で作業を続けると、痛みや不快感が強くなります。
手洗いや消毒のたびに、症状が悪化することもあります。
さらに、こうした痛みや不快感を避けるために、手指衛生が疎かになってしまうことも懸念されます。
乾燥した手では、手袋をはめにくくなり、スマートフォンの指紋認証も通りにくくなることもありえます。
職場によっては、指紋認証システムを用いた電子カルテを使っているところもあるでしょう。
いずれにしても、手の乾燥や手荒れが進行すると、作業の効率が低下してしまいます。
医師おすすめの職場での手のケア方法
ここからは、医師としておすすめしたい、現場で実践できる具体的な手のケア方法を紹介します。
ぬるま湯で手を洗う
手洗いの際には、熱すぎる水は手を乾燥させます。
ぬるめのお湯を使うようにしましょう。*6
肌に刺激の少ないハンドソープを選ぶ
香料や植物油など、刺激となる成分が含まれるハンドソープを避けるようにしましょう。
定期的な保湿
肌の乾燥やひび割れを防ぐために、手を洗った後には保湿をするようにしましょう。*6
なお、肌の乾燥が強い場合に使われる保湿剤は、以下のような種類のものがあります。*7
モイスチャライザー
水分を吸収し、肌の角質の水分を直接増やすものです。
職場では、このモイスチャライザーを使うと良いかもしれません。
モイスチャライザーは水分を保持する力が強いので、こまめに塗ることで手の乾燥を防ぐことができます。
市販されているものであれば、ヘパリン類似物質や尿素を含むハンドクリームなどが良いでしょう。
エモリエント
エモリエントの代表格であるワセリンは、手に膜を作って水分を閉じ込めます。
しかし、少しベタつきが気になることもあるので、夜寝る前に使用するのがおすすめです。
自分にあった手袋を選ぶ
ラテックス製の手袋は、ウイルスから皆さんを守ってくれるものです。
しかし、中にはラテックスによるアレルギー反応を起こす方もいます。
そうした方たちは、ニトリル製の手袋を使うと良いでしょう。*5
これらはラテックスに比べて刺激が少なく、敏感肌の方にも適しています。
ラテックス手袋を使用する際には、先ほどのエモリエントを使うことは避けましょう。
ゴムが弱くなってしまうからです。
加湿器を使用する
もし可能であれば、職場での湿度を適切に保つことも、手の乾燥予防に役立つでしょう。
医師おすすめの夜のハンドケア
乾燥がひどい場合には、夜間に集中ケアを行うことも有効です。
寝る前に保湿クリームをたっぷり塗り、その上に綿製の手袋をはめて寝る「ナイトケア」を取り入れてみてください。
手順としては以下の通りです。*6
- 寝る前にタオルで手を湿らせる。
- 肌が湿っている間に、刺激の少ないエモリエント剤を肌に塗る。
ハンドクリームなどの成分に「天然油脂」「長鎖脂肪酸」「脂肪酸エステル」「ラノリン」「リン脂質」などが入っているものを選ぶと良いでしょう。*8 - シーツや布団を汚さないように、必要に応じて薄い綿の手袋を着用する。
- エモリエントクリームを一晩放置する。
- 洗顔や入浴後にも、エモリエント剤を塗り直す。
手袋が保湿成分をしっかりと閉じ込めて、乾燥した手を集中的にケアすることができます。
数日続けるだけで、手のしっとり感が戻ってくることも期待できるでしょう。
一方で、こうしたセルフケアをしても肌の乾燥が治らない、あるいはひどくなるようであれば、市販の保湿剤だけでは改善が難しいことがあります。
そんな時は、皮膚科を受診し、医師に相談してみましょう。
場合によっては、ステロイド外用薬などの抗炎症薬や、医療用の保湿剤の処方が必要になることもあります。*7
まとめ:手の健康を守り、快適に働こう
介護や看護の現場では、手指衛生という感染対策のために手洗いと消毒は避けられないものです。
しかし、適切なケアを行うことで手荒れのリスクを低くすることができます。
保湿剤の選び方やハンドソープの使用、夜間の集中ケア、正しい手袋の使い方など、すぐに実践できる方法を取り入れ、手の乾燥から自分を守りましょう。
特に、手荒れ予防のためには、日々のケアが欠かせません。
手洗い後の保湿を習慣化して、忙しい中でも「手を守る時間」を少しずつ作っていきましょう。
この記事で紹介したケア方法を活用して、これからの乾燥シーズンを快適に過ごしてください。
あなたの手は、あなたの仕事にとって大切な資産です。
しっかりと守って、安心して業務に取り組んでくださいね。
参考文献
- *1 Hand Dermatitis in Health Care Workers. Safety and Health Assessment and Research for Prevention (SHARP) Program. Washinton Department of Labor and Industries.
- https://lni.wa.gov/safety-health/safety-research/files/2001/derm_hcw.pdf
- *2 Hand dermatitis South Tees Hospitals NHS Foundation Trust
- https://www.southtees.nhs.uk/resources/hand-dermatitis/
- *3 Hand Dermatitis in Healthcare Workers: Causes and Prevention.Meritech.
- https://www.meritech.com/blog/hand-dermatitis-in-healthcare-workers-causes-and-prevention
- *4 接触皮膚炎診療ガイドライン2020 日本皮膚科学会ガイドライン.日皮会誌.2020;130(4):523-567.
- https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/130_523contact_dermatitis2020.pdf
- *5 Hand care for healthcare workers. DermNet All about the skin.
- https://dermnetnz.org/topics/hand-care-for-healthcare-workers
- *6 Hand Dermatitis in Healthcare Workers | Vanderbilt Faculty & Staff Health and Wellness
- https://www.vumc.org/health-wellness/news-resource-articles/hand-dermatitis-healthcare-workers
- *7 皮脂欠乏症診療の手引き2021 日本皮膚科学会診療の手引き.日皮会誌.2021;131(10):2255-2270. p2260,2261
- https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/131_2255.pdf
- *8 保湿とエモリエント | 日本化粧品工業会
- https://www.jcia.org/user/public/knowledge/glossary/moisturizing
nishicherry2480(本名:木村香菜)
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。