資料請求
介護情報・コラム

【弁護士が解説】ヤングケアラーとは?定義・具体例・法制度による支援策などを紹介

2024/08/26

ヤングケアラーとは?定義・具体例・法制度による支援策などを紹介

2024年6月12日に改正子ども・若者育成支援推進法が施行され、ヤングケアラーの支援に関する国や地方公共団体等の努力義務が新たに定められました。

ヤングケアラーとは、家族の世話を過度に行っている子どもや若者です。周囲の人がヤングケアラーに当たると思われる場合は、悩みを抱え込まずに行政の窓口などへ相談するように勧めましょう。

本記事ではヤングケアラーについて、定義・具体例・法制度による支援策などを紹介・解説します。

ヤングケアラーとは?

2024年6月12日に施行された改正子ども・若者育成支援推進法(以下「改正法」)では、ヤングケアラーに対して、その意思を十分に尊重しつつ必要な支援を行うことが基本理念として新たに掲げられました(改正法2条7号)。

「ヤングケアラー」とは、「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」を意味します。
ヤングケアラーは、学業・就職・友人関係などに支障が生じているケースが多く、国や地方公共団体によるきめ細かな支援が求められています。

ヤングケアラーの具体例

たとえば以下のような状況にある子どもや若者は、ヤングケアラーに当たると考えられます*1。

  • 障害や病気のある家族に代わって、さまざまな家事をしている。
  • 家族に代わって、幼いきょうだいの世話をしている。
  • 障害や病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている。
  • 目を離せない家族のために、見守りや声かけなどの気遣いをしている。
  • 日本語が第一言語でない家族や、障害のある家族のために通訳をしている。
  • 家計を支えるために働いて、障害や病気のある家族を助けている。
  • アルコール、薬物、ギャンブルの問題を抱える家族に対応している。
  • がん、難病、精神疾患など、慢性的な病気に罹っている家族の看病をしている。
  • 障害や病気のある家族のために、身の回りの世話をしている。
  • 障害や病気のある家族のために、入浴やトイレの介助をしている。

なお、改正法は支援の対象として、おおむね30歳未満の子ども・若者を想定しています。
ただし、子ども・若者期にヤングケアラーとして家族の世話をした結果、子ども・若者にとって必要な時間を奪われたことにより、社会生活上の困難に引き続き陥っている場合などには、その状況に応じて40歳未満の者も支援の対象になり得るものとされています*2。

ヤングケアラーが直面する問題

ヤングケアラーは、以下のような問題に直面しているケースが多いです。

  • 学業への影響
    家族の世話に時間を取られることにより、遅刻・早退・欠席が増える、勉強の時間が取れないなどの問題を抱えているケースがあります。
  • 就職への影響
    家族の世話との両立を考慮して、自分にできると思う仕事の範囲を狭く考えてしまう傾向にあります。
    また、家族の世話に時間を取られて活動を広げることが難しいために、就職活動において自分のやってきたことをうまくアピールできないケースもあります。
  • 友人関係への影響
    家族の世話に時間を取られることにより、友人とコミュニケーションをとれる時間が少なくなってしまい、うまく友人関係を築けないケースがあります。

これらの問題を、ヤングケアラー自身が自力で解決することは困難です。そのため、国や地方公共団体などによる積極的な支援が求められます。

【2024年6月施行】ヤングケアラーを支援する国・地方公共団体等の努力義務

2024年6月12日に施行された改正法では、国および地方公共団体の機関などに対して、ヤングケアラーに対する以下の支援を行う努力義務が新たに課されました(改正法15条1項)。

  1. 社会生活を円滑に営むことができるようにするために、必要な相談・助言・指導を行うこと。
  2. 医療・療養を受けることを助けること。
  3. 生活環境を改善すること。
  4. 修学・就業を助けること。
  5. 5、4のほか、社会生活を営むために必要な知識技能の習得を助けること。
  6. 1~5のほか、社会生活を円滑に営むことができるようにするための援助を行うこと。

改正法によってヤングケアラー支援の努力義務が新設された背景には、地方公共団体におけるヤングケアラー支援の取り組みにばらつきが見られる状況が存在します*3。
特に市町村においては、ヤングケアラー支援の実施状況が低調であることが問題視されている状況です。

改正法では、ヤングケアラー支援の努力義務を法律レベルで明記することにより、各自治体における取り組みの向上が目指されています。

ヤングケアラーに対する具体的な支援のあり方

ヤングケアラーに対する具体的な支援のあり方については、行政通達によって以下の事項が示されています*4。

  1. ヤングケアラーの把握
  2. ヤングケアラーへの支援
  3. 支援に当たって留意すべき事項

ヤングケアラーの把握

ヤングケアラーを把握して具体的な支援に繋げるためには、ヤングケアラーが安心して自身や家庭の状況を話せる関係づくりが重要であり、特にその状況や心情に関する学校関係者等の理解の促進に努める必要があることが指摘されています。
その上で、主に市区町村において個人を把握できる方法(任意の記名式等)による調査を実施する必要があるとされています。

また、支援の必要性・緊急性の高い者を把握するためのアプローチとして、以下の方法が例示されています。

  • 生活保護や児童扶養手当の受給家庭の状況確認によるアプローチ
  • 学校等を通じたアンケート調査等によるアプローチ
  • 精神保健福祉分野との連携によるアプローチ

ヤングケアラーへの支援

18歳未満のヤングケアラーに対しては、市区町村のこども家庭センター等においてサポートプランを作成し、包括的・計画的な支援を行うことが求められています。

18歳以上のヤングケアラーに対しては、主に都道府県が個々の若者の相談に応じてニーズ・課題等の支援を整理し、市区町村へのつなぎやケア体制の整備などを行うことが求められます。
市区町村においては、年齢により切れ目なく支援を行うための体制整備を行うことが求められます。特にヤングケアラーが担うケアを外部サービスによって代替する具体的な支援段階においては、市区町村が中心的な役割を果たすことが期待されています。

支援に当たって留意すべき事項

ヤングケアラーの支援に当たっては、本人や保護者等の複雑な心情等に十分配慮すべきことが指摘されています。

ヤングケアラーの本人の受け止めを丁寧に捉え、その気持ちに寄り添いながら、保護者等の状況や心情も十分踏まえた上で、肯定的・共感的な関わりを心がけることが求められます。
外部サービスの利用を検討する際には、家族全体を支援する視点を持って、家庭内の状況や家族の関係性・心情等にも十分留意し、丁寧な説明等をして理解を得ながら利用を促すなどの対応が適当とされています。

ヤングケアラー支援における介護事業者の役割

介護に携われるケアマネジャーやヘルパーは、家庭訪問などの際にヤングケアラーを見つける機会があります。介護事業者としては、家庭全体を見る視点をもって、訪問する家庭にヤングケアラーがいるかもしれないことに留意すべきです。
たとえば以下のような事情がある場合は、その家庭にヤングケアラーがいる可能性があります。

  • こどもや若者が、ケア対象者の介護や介助をしている
  • こどもや若者が、日常の家事をしている
  • こどもや若者が、常にケア対象者のそばにいる
  • 家族構成が、ケア対象者とその子のみである
  • ケア対象者が介護施設の窓口に来る際に、こどもや若者が付き添っている

など

介護事業者がヤングケアラーに気づいたら、市区町村の子ども家庭センターや、児童福祉担当部署に連絡しましょう。自治体との緊密な連携が、ヤングケアラーをサポートすることに繋がります*5。

ヤングケアラーの悩みに関する相談窓口

ヤングケアラーが抱える問題についての相談窓口は、こども家庭庁のウェブサイトから検索できます*6。

周囲にヤングケアラーと思われる子どもや若者がいる場合は、本人の気持ちに寄り添いつつ、必要に応じて相談窓口への相談を促しましょう。

*1参考)こども家庭庁「ヤングケアラーについて」
https://www.cfa.go.jp/policies/young-carer
*2参考)子ども家庭庁「「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の一部施行について(ヤングケアラー関係)」p2
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e0eb9d18-d7da-43cc-a4e3-51d34ec335c1/3ba2cef0/20240612_policies_young-carer_13.pdf
*3参考)有限責任監査法人トーマツ「ヤングケアラー支援の効果的取組に関する調査研究」p18など
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/news-releases/jp-nr-nr20240424-2.pdf
*4参考)子ども家庭庁「「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の一部施行について(ヤングケアラー関係)」p3~7
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e0eb9d18-d7da-43cc-a4e3-51d34ec335c1/3ba2cef0/20240612_policies_young-carer_13.pdf
*5参考)東京都「ヤングケアラー支援マニュアル 高齢者福祉関係機関編」
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo//kosodate/young-carer.files/manual_koureisyafukushi.pdf
*6参考)こども家庭庁「相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
【執筆者】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
arrow_upward