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介護事業所として知っておきたいSNS活用の注意点とトラブル対策

2025/06/18

介護事業者として知っておきたい成年後見制度|種類や手続きなどを弁護士が解説

SNSは、以前は若者中心のコミュニケーション手段でしたが、現在ではあらゆる年代にまで利用者がひろがり、用途も多様化しています。

介護事業所におけるSNS活用は広報や採用のチャンスを広げますが、同時に個人情報漏洩や不祥事といった大きなリスクも伴い、安易な利用によって施設の信頼性を大きく損なうおそれもあります。

この記事では、介護事業所でのSNS活用の方法、活用例、活用する際の注意点とトラブル対策についてみていき、安全で効果的なSNS運用を実現するための方策を紹介します。

SNS利用の拡大と種類

総務省によると、 日本のSNS利用者数は2023年には1億580万人に上り、2028年には1億1,360万人にまで増加すると予測されています。*1

当初は若者中心のコミュニケーション手段だったSNSは、現在では利用者があらゆる年代に拡がり、その用途も多様です。
SNSの種類には以下のようなものがあります。*2

表1 SNSの種類と概要
SNSの種類

特徴

Instagram
(インスタグラム)

画像投稿型SNS。
施設の雰囲気など画像を使って発信できる。
ライブ配信も可能。
X(エックス)
※旧Twitter

短文投稿に向いたSNS。
文字制限は140文字。拡散力が高い。

FaceBook
(フェイスブック)

実名登録型のSNS。
個人同士のつながりだけではなく、
事業所のPRにも活用できる。
LINE
(ライン)
実チャット、音声電話、ビデオ通話が無料でできるコミュニケーションSNS。
公式アカウントも設定可能。
YouTube
(ユーチューブ)
撮影・編集した動画を投稿、ライブ配信もできる。
視聴者はコメントを投稿できる。

出所)介護・福祉系弁護士法人おかげさま「介護施設におけるSNS活用の注意点とトラブル対策」

SNS活用法とその効果

介護事業者では、運営する介護施設のPRや採用活動、あるいは利用者や職員同士のコミュニ
ケーションなどのためにSNSを活用するケースが増えています。*2
SNSの活用方法についてみていきましょう。

集客・販促のための活用方法

SNSを販促ツールとして活用する場合には以下の3つをふまえて、どのSNSを使うか選択することが大切です。*3

  1. SNSを通じて達成したい目的
    新規利用者を増やしたい場合には、ユーザー数が多く拡散性が高いXやInstagramが有効です。
    動画編集に自信がある場合には、YouTubeやTikTokも検討してみましょう。
  2. ターゲットとなる顧客の年齢層
    ターゲットの利用者や家族の年齢を意識することも重要です。
    たとえば、FacebookやLINEと比較するとTwitterやInstagramは若年層のユーザー割合が高く、TikTokはさらに若いユーザーに偏っています。
  3. 扱っているサービスの特性
    サービスの強みが生かせるSNSを選ぶことも大切です。
    たとえば、写真や動画を活用する方が魅力を発信しやすい場合には、InstagramやYouTube、Facebookが非常に有効です。
    一方、文章中心のコミュニケーションを図りたい場合には、Twitterなどを使うほうが効果的かもしれません。

SNS活用の事例

ここでは、福島県の「なでしこ川俣」の取り組みをご紹介します。*4

SNS活用の目的と活用方法

同施設は、特別養護老人ホームと介護老人保健施設、通所リハビリテーション施設で構成されている複合施設で、2017年からSNSを活用しています。

その目的は、職員の人材育成や人材定着。

SNSの活用を始めたのは、SNSを通じて施設の持つ魅力が高まり、知名度が上れば、「自分たちはこんなに素晴らしい施設で働いているんだ」と、職員のモチベーションが向上し、職員に選んでもらえる施設になるのではないかと考えたからです。

活用しているのは、タイムリーに気楽につぶやけるX、映像によって視覚化できる Instagram、さらに詳しい情報を発信するブログで、それらを用途によって使い分けています。

発信内容は3つの施設によって異なります。

通所リハビリテーション施設は毎日のレクリエーションやリハビリの様子を、介護老人保健施設は入所生活から在宅生活に戻るためのリハビリの様子を、特別養護老人ホームは野菜づくりなど利用者の日々の生活の様子を主に発信しています。

SNS活用の効果

「なでしこ川俣」は、利用者、家族、地域、他施設と、縦横無尽につながりながら、情報を発信していますが、外部だけではなく施設内部に向けた発信力も持っています。

たとえば、SNSを通して知ったクオリティの高いレクリエーション法を、「なでしこ川俣」内の別の施設で取り入れることもあります。

また、「見せよう」「発信しよう」という職員間のポジティブな雰囲気や考える力、自己肯定感が高まってきたのも、SNSの効果だと捉えています。

自身の介護業務に関する投稿について、「ほかの施設の方に『こういう方法もあるんですね』と、リツイートしてもらった時は、やはりうれしくて充実感がある」と話す職員もいます。

SNS活用にともなうリスク

これまでみてきたように、SNSの活用は広報や採用活動、施設内のコミュニケ―ンやモチベーションの向上に役立ちます。

ただし、多くの介護事業者は、専門家に依頼せず、介護スタッフや事務スタッフが業務のかたわら投稿することが一般的ですし、職員が業務時間外に投稿することもあるでしょう
そのため、活用する際には、それに伴うリスクを理解しておくことが大切です。

個人情報・機密情報の漏洩

SNSは個人情報が流出しやすいツールです。*2
たとえば、スタッフが投稿したInstagramの画像に利用者が写り込んでいたり、スタッフがプライベートのTwitterで利用者のエピソードや、同僚・上司に対する不平・不満を書いてしまったりといったトラブルが起こりがちです。

 利用者の様子を本人あるいは家族の同意なく無断で投稿することは、個人情報保護法に違反しますし、プライバシーの侵害にも該当する恐れがあります。

被写体の許可なく無断で掲載することは「肖像権」の侵害に該当し、場合によっては賠償金や慰謝料の請求を受ける可能性があります。
その場合の対象は利用者だけでなく、職員も同じです。

また、スタッフが勤務先の機密情報や内部事情を外部に漏らすことは不正競争防止法に違反する行為で、雇用主である法人から民事・刑事上の責任を問われることもあります。
その場合、法人は情報漏洩の被害者である利用者やその家族に対して責任を負うことになり、プライバシー侵害の程度が大きい場合は慰謝料を支払わなければならない場合もあります。

実際に起こった判例をみてみましょう。
訪問介護事業者の職員が、自分のプライベートなブログに、訪問介護先の利用者について投稿したことが発覚したのです。
この行為はプライバシー侵害と名誉毀損に該当するとして、その職員と事業者に損害賠償責任が課せられました。(東京地裁平成27年9月4日)

こうした事態が生じれば、介護施設全体の社会的信用も著しく低下するため、細心の注意が必要です。

不祥事の発覚

最近はSNSを通じて介護の現場の声を誰でも簡単に発信できるようになり、介護現場で発生している不祥事が見られるようになってきました。*5
その事例には以下のようなものがあります。

  • 不祥事を行っている職員が自らその様子をSNSに公開
  • 職員や利用者が介護施設での不祥事をSNSで告発
  • 介護施設職員が外出先で利用者を虐待しているところに遭遇した第三者がその様子を投稿

このような投稿があると、一気に拡散されて大炎上につながることがあります。

最大のリスクマネジメントは、施設が暴露されるような不備をつくらないことですが、一方で法人の対外的信用を貶める職員の行為も違法になる可能性があります。*2
職員には、職務上知り得た秘密を漏洩しない守秘義務があります。これに反すると、労働者としての忠実義務違反になり、対外的にも職員個人が賠償責任を負う可能性もあります。

ハラスメント

業務上のコミュニケーション・ツールとしてLINEを導入している事業者は少なくありません。 しかし、LINEは手軽にコミュニケーションが取れる反面、人間関係上のトラブルが生じやすいツールだといわれています。

LINEを通じてパワハラ、セクハラに該当する行為をしたり、グループLINEで特定の人物を仲間はずれにしたりすることは、職場内での対人関係に悪影響を及ぼします。*6 また、被害を受けたスタッフが精神疾患を発症するおそれもあります。

SNSによるスタッフ間の個人的なやりとりについては、慎重に検討する必要があります。

トラブルを防ぐための対策

では、SNS活用にともなうリスクを防ぐためには、どうしたらいいのでしょうか。

ルールを策定する

トラブルを防ぐためには、事業所内でSNSを利用する際のルールを策定し、周知する必要があります。*6

たとえば、就業規則でSNSの無断利用を禁止したり、SNS利用規則を作成することもできます。
情報管理ガイドラインの一環としてSNS利用指針を策定すれば、重要な情報の流出を防ぐことにもつながります。

また、SNSが原因のトラブルは、介護施設のSNSアカウントだけでなく、職員個人のアカウントでも起こり得るため、SNS利用ルールは職員個人のアカウントにも適用すると安心です。*5

ただし、ルールによる過剰な縛りは、職員にとってストレスの原因になるおそれもありますので、その点にも注意して運用しましょう。

介護職員への教育

職員への徹底した教育は重要です。*5
SNS利用に関するルールを作成しても、そのルールを守らなければ意味がありません。
そのためには、以下のような内容を徹底して教育する必要があります。

  • SNSの特質
  • SNSが原因のトラブル事例
  • SNSが原因でトラブルが起きたときのリスク
  • 施設が定めているSNS利用ルール
  • SNS利用ルールを破ったときの罰則

職員が理解しやすいように、わかりやすく説明することが大切です。

また、規則やイドラインの作成とあわせて、定期的にSNS利用やセキュリティー、プライバシー保持に関する研修を実施すれば、より効果的でしょう。*6

画像利用の許可をとる

SNSで画像を投稿する際には、被写体の利用者、あるいは身元保証人の家族に事前に許可をもらいましょう。*2
その際には、以下のことを伝えることが大切です。

  • どんな媒体に載るのか
  • どんな写真を掲載する予定なのか
  • どういう目的で掲載するのか
  • どのくらいの大きさ、ページ数で掲載するのか

職員の名前や写真を載せる場合には、退職後も利用してよいか許可をとるか、別の画像に差し替える必要があります。

おわりに

SNSは介護施設の知名度向上や人材採用、施設内のコミュニケ―ションやモチベーション向上に有効ですが、安易な活用は重大なトラブルにつながります。
そうしたリスクを防ぐためには、明確な運用ルールの策定、起こりうるトラブル事例を交えた職員教育が不可欠です。

万一の事態に備え、専門機関との連携体制を構築しておけば、安全で効果的なSNS運用が可能となるでしょう。

資料一覧

*1 出所)総務省「令和6年版情報通信白書 第Ⅱ部 第1章ICT市場の動向」p.152
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n2170000.pdf
*2 出所)介護・福祉系弁護士法人おかげさま「介護施設におけるSNS活用の注意点とトラブル対策」
https://kaigo-trouble.com/column/social-networking-care-facility-tips/
*3 出所)J-net「ビジネスQ&A TwitterやInstagram、FacebookなどたくさんのSNSがありますが、どれから始めればいいでしょうか。」
https://j-net21.smrj.go.jp/qa/development/Q1426.html
*4 出所)社会福祉法人 福島県社会福祉協議会「はあとふる ふくしま>SNS×社会福祉施設 リアルな魅力を伝える一歩」No.314(2023年2月)
https://www.fukushimakenshakyo.or.jp/files/libs/2295/202302141031007350.pdf
*5 出所)春田法律事務所「介護施設でSNSが原因でトラブルが発生!?その種類と防止する方法を解説」(最終更新日: 2023年11月29日)
https://haruta-lo.com/column/long-term-care-sns-trouble/
*6 出所)石川相続税・相続手続相談センター運営会社 税理士法人 北陸会計「介護施設におけるSNS活用とそのリスク」(2022年11月25日)
https://www.hokuriku-souzoku.com/2022/11/25/%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E6%96%BD%E8%A8%AD%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8Bsns%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF/
【執筆者】
横内 美保子
博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育
成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーでもあり、ウェブライター、編集者、ディレクターとして分野横断的な取り組みを続けている。
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