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介護情報・コラム

化粧療法(メイクセラピー)とは?最新の研究報告と実施の注意点

2023/12/14

化粧療法(メイクセラピー)とは?最新の研究報告と実施の注意点

執筆者:三島 つむぎ


化粧療法(メイクセラピー)は、化粧を通じて心身の健康を高め、QOL(生活の質)の向上を目指す取り組みです。
介護現場では、レクレーションなどで導入されるケースも増えています。
この記事では、近年の研究データも踏まえながら、化粧療法の概要について解説します。
美容業界に在籍していた筆者の経験も踏まえ、実施の注意点もお伝えします。



化粧療法(メイクセラピー)の概要

最初に、化粧療法(メイクセラピー)とは何なのか、その概要から見ていきましょう。


化粧療法
makup thrapy

化粧を通じて心身の健康を高め
生活をより豊かにする取り組み

(1) 化粧療法に期待される効果

化粧療法とは、
ハンドケア、フェイシャルケア、メイクアップなどのスキンシップを通してリラックスしながら若さや美しさを取り戻し、自信や満足感、自己肯定感などを手にすることを目的とした生理的・心理的ケア(日本化粧療法協会)を指します。
*1

かつて化粧療法といえば、華やかなメーキャップを専門家に施してもらい、“晴れの日” のような特別感や高揚感を味わうイメージがありました。

「わあ、キレイ!」
「やっぱり、美人ですね!」
といった具合に褒め言葉が飛び交えば、それだけで楽しい気分になります。

近年では、このような気分を向上させる効果だけでなく、ADL(Activity of daily living:日常生活動作)の「整容」の文脈で、取り上げられることが増えています。


【参考:整容とは】
整容とは、容姿(姿・形)など身だしなみを整えることを言い、具体的な項目としては、口腔ケア(歯磨き等)、手洗い、爪の手入れ、洗顔、整髪、髭剃り、化粧とされている。これら整容を含めたADLは、QOLを大きく左右する因子であり、リハビリテーション領域においては高齢者が自立した生活ができるかどうかを判断する重要な評価項目となっている。

*2


(2) 科学的に有効性が示された研究成果

2021年の岡山大学の研究グループの発表によれば、女性認知症患者さん36名を対象にした臨床研究にて、化粧直後から情動機能が有意に改善したことが、示されています。
以下は、岡山大学のプレスリリースからの引用です。


【現状】

化粧療法は認知症患者さんに対して良い効果をもたらすことが期待されていますが、その効果は科学的には十分証明されていませんでした。


【研究成果の内容】

今回我々の研究グループは、施設入所中の女性認知症患者さん36人を化粧療法群(19人)と対照群(17人)に分け、化粧療法の効果を検証する臨床研究を実施しました。
開始直後の早期効果に注目したところ、化粧療法群では認知症の情動症状(BPSD)スコア(阿部式BPSDスコア)が化粧直後から有意に改善していました。
さらに、AIを用いた顔解析では、化粧療法群では見た目年齢が若返り、特にADL障害が中等度の患者さんでは喜びが増加していることが示されました。


【社会的な意義】

今回の研究で認知症患者さんに対する化粧療法の有効性が科学的に示されたことで、化粧療法の普及につながることが期待されます。



【A:化粧療法で情動症状 (BPSD) が改善】
A:化粧療法で情動症状 (BPSD) が改善

【B:B AI 顔解析で見た目年齢が若返り、喜びが増加】
B:B AI 顔解析で見た目年齢が若返り、喜びが増加

*3



化粧療法を取り入れるときの注意点

化粧療法への注目が集まっているタイミングでは、「ぜひ、うちでも取り入れてみたい」という方が、多いのではないかと思います。
ただ、筆者はシニア向け化粧品に携わっていたのですが、実際に化粧療法を行う際には、注意点もあると感じています。
以下、3つのポイントをご紹介します。


化粧療法 実践の注意点
  1.  他社が行う場合は美容師免許が必要
  2.  安全で簡単に落ちることを優先する
  3.  珍しいブランドより大衆的な定番品を選ぶ

(1) 他者が行う場合は美容師免許が必要となる

1つめとして、これは事業者へ訪問などを依頼する際の注意点ですが、化粧の美容サービス提供には、美容師免許が必要です。
ヘアカットの場合、美容師免許や理容師免許が必要なことは、よく知られています。
しかし、化粧にも免許が必要であることは、意外と盲点かもしれません。
以下は厚生労働省のWebサイトからの引用です。


美容師は「美容を業とする者」をいい、美容師法に基づき厚生労働大臣の免許を得なければならない。
美容師の免許を持たないものは美容を業として行うことはできない。なお、業とは反復継続の意思をもって行うことで、有料・無料は問わない。
美容とは「パーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること」とされており、染毛やまつ毛エクステンションも美容行為に含まれる。
なお、美容師がカッティングを行うことは差し支えない。
また、美容師が美容を行う場合には器具やタオル等を清潔に保たねばならない。

*4


美容師免許を持たない方が、化粧療法をリードする場合には、直接メーキャップを施すことはできません。
やり方をレクチャーして、「セルフでする化粧」をサポートするのがポイントです。


(2) 安全で簡単に落ちることを優先する

2つめは、仕上がりの美しさよりも、“安全で簡単に落ちること” を優先する観点です。
メイクをする場合、「落とすときに、適切に落とせるか?」をセットで考える必要があります。
現代の化粧品は、「崩れない、落ちない」といったニーズに対応しているため、注意が必要です。
いつもの洗顔料では落ちないばかりか、クレンジング料を使用しても、きちんと落とすにはテクニックが必要なケースが少なくありません。


表2 化粧・整容療法を用いた脱感作

*5

出所)公益財団法人長寿科学振興財団「高齢者の食事と栄養、口腔ケア」p.187
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/pdf/h31-5-3-4.pdf


上表をもとに、比較的、安全に実施しやすいものを挙げると、以下のとおりです。

  • スキンケア、ハンドクリーム、ボディクリームといった保湿化粧品
  • おしろい(粉、パウダー)を使ったベースメイク
  • 眉を描くアイブロウ
  • 色付きのリップ(保湿用リップに色が付いたもの)

逆に以下は、専門家の指導なしには、実施を控えたほうがよいものです。

  • マニキュア
  • リキッドタイプの化粧下地、ファンデーション
  • アイシャドウ、とくにラメ入りのもの

その理由を補足すると、まずマニキュアは、爪の色がわからなくなるため、健康状態の把握が難しくなります。どうしても爪のケアをしたい場合は、透明のトップコートのみがよいでしょう。

次に、リキッドタイプの化粧下地やファンデーションは、肌が乾燥している場合、シワの溝にも入り込んで落としにくくなります。衛生を保ちづらくなるため、避けたいアイテムです。

アイシャドウは、落ちにくさを重視して設計されていることが多いものです。とくにラメ入りのアイシャドウは、上手に落とさないと、何日も残る原因となります。
目もとのメイクがうまく落とせないと、残ったメイクが目の中に入ってゴロゴロしたり、不衛生になって炎症を起こしたりすることがあります。


おすすめは「色付きリップ」①唇の保湿効果がある②簡単に落とせる③ひと塗りでメイクした感が出る

取り入れやすいおすすめを、ひとつ挙げるなら、先にも述べた「色付きリップ」です。
保湿用のリップに色が付いているもので、近年、若い方の間でも人気です。ドラッグストアで、数百円で購入できます。
色付きリップは、保湿リップがベースですから、唇の乾燥を抑え、話しやすくなります。食事をすると取れてしまうくらい、持続性はありませんが、それが逆にメリットといえます。


(3) 珍しいブランドより大衆的な定番品を選ぶ

3つめの注意点として、化粧品を選ぶときには、新商品や海外ブランドなどのマニアックなものより、昔からの定番品としておなじみの、大衆的な化粧品がおすすめといえます。
これは、肌荒れやアレルギーに対する対応としての観点になります。

たとえば、ナチュラル、オーガニックといった自然派の化粧品の場合、逆に成分が精製されていないため、肌荒れしやすいという方もいます。
高齢になるほど、肌は乾燥によって、敏感肌の性質になっていきます。すでに多くの人に利用されている、実績のある化粧品を選ぶほうが、安心といえるでしょう。


さいごに

本記事では、化粧療法(メイクセラピー)を取り上げました。
「お化粧をすること」は、多くの方にとって楽しい経験です。
筆者自身、メイク前後で、表情がイキイキと変わる方々の様子を目の当たりにし、メイクの持つ力を実感しています。
注意点も念頭に置きつつ、より安全で快適な実践となればと願っています。


注釈

*1
出所)日本化粧療法協会
http://m-therapy.jp/

*2
出所)公益財団法人長寿科学振興財団「高齢者の食事と栄養、口腔ケア」p.183
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/pdf/h31-5-3-4.pdf

*3
出所)岡山大学「認知症患者さんに対する化粧療法の早期効果を臨床試験で証明!」
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r2/press20210318-3.pdf

*4
出所)厚生労働省「美容師法の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124874.html

*5
出所)公益財団法人長寿科学振興財団「高齢者の食事と栄養、口腔ケア」p.187
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/pdf/h31-5-3-4.pdf

*注釈のない画像:筆者作成

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【執筆者】
三島 つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

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