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介護情報・コラム

介護の現場で働く人必見!高齢者に多い服薬トラブルと対処法を薬剤師が解説

2023/12/19

介護の現場で働く人必見!高齢者に多い服薬トラブルと対処法を薬剤師が解説

執筆者:中西 真理(薬剤師・薬学修士)


服薬介助は、介護の現場でニーズの高い業務の一つです。
有資格者ではない介護職員の服薬介助にはいくつかの条件があり、対象となるのは容態が安定している利用者のみで、服用薬は誤嚥のリスクがないものに限られます*1が、それでも高齢者の服薬には細心の注意が必要です。


服薬介助の対象となりうる利用者の要件
  1. 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
  2. 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
  3. 内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと

注意:
上記3要件については、事前に医師、歯科医師または看護職員による確認が必要。
また、服薬介助については、本人や家族の具体的な依頼に基づいて行うこととされている。


要件を満たせば行える介助行為
  • 皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
  • 皮膚への湿布の貼付
  • 点眼薬の点眼
  • 一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
  • 肛門からの坐薬挿入
  • 鼻腔粘膜への薬剤噴霧

出所)厚生労働省「所管の法令等>所管の法令、告示・通達等「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」」*1を参考に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2895&dataType=1&pageNo=1


そこで、この記事では介護の現場で働く方たちに向けて、高齢者の服薬介助にあたって知っておくべき注意点などを解説します。



高齢者で多い服薬トラブル

先にも解説しましたが、介護職員が服薬介助できるのは容態の安定している利用者のみで、対象となる薬剤は誤嚥の可能性がないものに限られています。
しかし、高齢者の体調は日々変化します。
そのため、誤嚥をはじめとしたさまざまな服薬トラブルを念頭に置きながら、服薬介助にあたらなければなりません。


(1) 誤嚥

「誤嚥」とは、本来気管に入るべきではないものが気管に入ること*2です。
介護職員があつかえるのは一包化された薬のみですが、分包されている複数の薬を一度に服用する場合粉薬を服用する場合は誤嚥を起こしやすいため、注意が必要です。
また、薬を服用する際の水分で誤嚥を起こすこともあります。
その他、服用している薬の作用で誤嚥のリスクが高まるケースもあるため、服用薬が変わった場合も誤嚥に注意しましょう。


【薬の服用が原因で起きる誤嚥や誤嚥性肺炎の例】
  • 一包化された複数の薬を一度に服用*3
    →普通錠は飲み込めたものの、口腔内崩壊錠は口腔内に貼り付いたまま残留。
     不顕性誤嚥(自覚のない誤嚥)を発症。

  • 粉薬を服用*3
    →歯茎などに付着した粉薬が残留。不顕性誤嚥を発症。

  • 薬剤服用時に水を服用
    →むせて水分が気管に入り、誤嚥性肺炎を発症。

  • 唾液の分泌量が減る副作用がある薬を服用
    →口腔内に薬が貼り付き、うまく飲み込めず誤嚥。

  • 筋肉の緊張をゆるめる作用のある薬を服用
    →薬をうまく飲み込めず、誤嚥。

(2) 飲み忘れ・飲み間違い

高齢者の服薬介助では、飲み忘れや飲み間違いにも注意しなければなりません。
特に、飲んでいる薬の種類が多くなると、以下のような飲み忘れ・飲み間違いが起こることがあります。
用法用量は薬袋や薬のしおり、お薬手帳などで確認できます。
服薬介助をするときは、できるだけ事前に用法用量を確認するようにしましょう。


【高齢者の飲み忘れ・飲み間違いの例*4】
  • 一部の薬を飲み忘れてしまう
    例:飲みにくい用法(起床時、食前、昼食後など)の薬を飲み忘れる。週1回だけ服用する薬を飲み忘れる。

  • 同じ薬を1日に何度も飲んでしまう
    例:残薬がたくさんあり、飲んだかどうか忘れてしまい何度も服用。

  • 数を間違えて飲んでしまう
    例:1回3錠の薬を1錠ずつ服用。1回1錠の薬を2錠ずつ服用。

  • 見た目のよく似た薬を取り違えて飲んでしまう
    例:一包化された薬の用法を確認せずに服用。シートがよく似ている薬を取り違えて服用。

出所)健康長寿ネット「高齢者の病気>高齢者と薬>服薬支援」を参考に筆者作成

https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kusuri/shien.html

(3) 相互作用や副作用の発生

高齢者は、一般的に生理機能が低下しています。
そのため、若い人に比べて薬の効果が強くあらわれたり、副作用が生じたりするリスクが高くなります。
また、複数の薬を飲んでいると、相互作用で薬の効果が強くなり過ぎたり、逆に期待通りの効果が得られなかったりします。
さらに、相互作用の影響で副作用があらわれることもあります。
したがって、服薬介助をしたら、利用者のその後の体調変化にも気を配ってください。
そして薬の影響と思われる症状(特に副作用などの有害事象)が見られる場合は、医師や薬剤師に積極的に相談しましょう。


高齢者の服薬トラブルを防ぐ方法

高齢者の服薬トラブルは、ちょっとした工夫や注意で減らすことが可能です。

(1) 服薬時の姿勢に注意する

服薬介助は、利用者の上半身を軽く起こした状態で行ってください。寝たままの状態では、誤嚥のリスクが高くなります。
また、薬を飲む際は少し前傾姿勢のほうがむせにくくなります。介護職員が立っていると利用者が上を向きがちなので、目線を合わせて介助するとよいでしょう。


(2) 複数の利用者の薬を一度にあつかわない

服薬介助が必要な利用者が複数いる場合は、一人ずつ介助してください。
その際、薬袋や分包紙に記載されている名前をしっかり確認し、他人の薬を誤って渡すことがないように気を付けてください。
特に、一包化されている薬は中身の確認が難しいため、誤配薬には注意が必要です。
万が一、誤って他人の薬を服用させてしまった場合は、すぐに医師に連絡してください。


(3) 医師の指示を守る

薬は、飲むタイミングがほんの少し変わるだけで、効果がまったく得られなくなったり、副作用のリスクが高くなったりするものもあります。
そのため、服薬介助の際は、医師が指示した用法用量を確認したうえで利用者が正しく飲めるようサポートしてください。
利用者の生活パターンと医師の指示した飲み方が合わない場合は、飲み方を勝手に変えるのではなく、医師・薬剤師に相談してください。


(4) 薬の内容や数を一緒に確認する

服薬介助の際には、薬の内容や数を利用者と一緒に確認しましょう。
薬の内容を確認すれば、誤配薬や用法の間違いに気づきやすくなります。また、数を確認しながら服用すれば、落薬や飲み残しの予防につながります。


(5) 薬の服用は水かぬるま湯で

薬の服用をサポートするときは、水かぬるま湯を用意してください。
内服薬は、水で服用することを前提に作られています。水以外のもので服用すると、薬の効きが悪くなったり、相互作用で重篤な副作用が発生したりすることもあります。


(6) 飲み込みを確認

高齢者のなかには、薬をうまく飲み込めない方も少なからずいます。しかし、口腔内に薬が残っていると誤嚥のリスクが高まります。
したがって、利用者が薬を服用したら、可能な限り口腔内や舌下を確認してしっかり飲み込めているか確認してください。
特に体の片側に麻痺がある場合は、麻痺のないほうで飲み込むよう声掛けをして、利用者が薬を確実に飲み込めるようにしてください。


(7) 服用後の体調変化に注意する

服薬介助後は、利用者の体調変化に注意してください。
薬が原因で生じる有害事象のなかには、高齢者特有の症状と見分けが難しいものが数多くあります。
処方されている薬の効能効果まで把握するのは難しいかもしれませんが、気になる症状や体調変化がある場合は、医師・薬剤師に連絡してください。


【薬が原因で高齢者に起こりうる有害事象の例と原因薬剤*5】
有害事象 原因となりうる薬剤の例
ふらつき・転倒、記憶障害 降圧薬、睡眠導入剤、抗不安薬、抗うつ薬、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬(アレルギーや風邪の薬)など
せん妄
(急に発症する軽度の意識障害)*6
降圧薬、睡眠導入剤、抗不安薬、抗うつ薬、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬、抗不整脈薬、気管支拡張薬、ステロイドなど
抑うつ
(気分の落ち込みやそれにともなう身体症状)*7
降圧薬、抗ヒスタミン薬、抗甲状腺薬、ステロイドなど
食欲低下 痛み止め、アスピリン、下剤、抗不安薬、パーキンソン病治療薬、骨粗しょう症治療薬、ビグアナイド(糖尿病薬の一種)など
便秘 睡眠導入剤、抗不安薬、抗うつ薬、過活動膀胱(頻尿)治療薬、腸管鎮痙薬(胃痛などの薬)、抗ヒスタミン薬、αグルコシダーゼ阻害薬(糖尿病治療薬)、パーキンソン病治療薬など
排尿障害
(尿が出にくくなる、あるいは尿が漏れる)
抗うつ薬、過活動膀胱治療薬、腸管鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、睡眠導入剤、抗不安薬、α遮断薬(降圧薬の一種)、利尿薬など

出所)「高齢者の医薬品適正使用の指針「総論編」2018年5月厚生労働省」P.10*5を参考に筆者作成

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf P.10

高齢者の服薬介助に困ったら医師・薬剤師に相談を

医師は患者の症状に応じた治療を行い、必要に応じて薬を処方します。
薬剤師は医師の処方内容を精査し、患者のアレルギー歴や既往歴からみて適切な薬剤が処方されているか、相互作用や重複投与がないかなどをチェックしたうえで調剤を行います。
しかしながら、医師も薬剤師も患者の服薬状況を直接知る機会はほとんどありません。

一方で、介護職員は医師や薬剤師などに比べて利用者と接する機会が多い職種です。
そして、服薬介助や利用者の日常の様子などを通じて、服薬状況や服薬に関するトラブルなどを知ることができる貴重な存在でもあります。実際、介護職員からの報告で処方が見直されたケースも多数あります。

【介護職員からの報告で処方が見直された実例】
  • 錠剤が大きすぎて服薬を拒否していた例
    →錠剤を散剤に変更。その後、服薬拒否がなくなった。

  • 「溶ける薬(口腔内崩壊錠)は、甘すぎて嫌だ。」といって、一包化から高齢者自身が勝手に薬を抜いていた例
    →普通錠に変更。一包化から薬を抜くことがなくなった。

  • 薬剤服用時に水を服用
    →むせて水分が気管に入り、誤嚥性肺炎を発症。

  • 「利用者が昼間うとうとしていて食事を摂ってくれない。」との情報提供を介護職員から受けた例
    →睡眠導入剤を短時間作用型に変更。昼間に居眠りすることが少なくなった。

  • 「あちこちの医療機関で痛み止めをもらい、勝手に飲んでいるようだ。」との情報提供を介護職員から受けた例
    →家族の協力を得て薬を整理し、古い薬は廃棄。処方日の新しい薬は家族が管理し、残薬がある間は痛み止めの処方を中止した。

上記は、いずれもそのままの処方では利用者の健康を害するおそれがあったケースです。
しかし、介護職員からの適切な情報提供により、健康被害を未然に防ぐことができました。
服薬介助において、困っていることや不便に感じていること、改善したほうがよいことがある場合は、遠慮なく医師や薬剤師に相談してください。
多職種が積極的に連携し合い、利用者の健康が長く維持されるようになれば、介護に携わる医療職や介護職員の負担軽減にもつながるでしょう。


参考文献・参考サイト

*1
出所)*厚生労働省「所管の法令等>所管の法令、告示・通達等「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2895&dataType=1&pageNo=1

*2
出所)e-ヘルスネット「健康用語辞典>歯・口腔の健康>誤嚥性肺炎」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.htmlhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html

*3
出所)野﨑園子「特集「口から食べる」を支援する栄養管理 薬剤と嚥下障害」日本静脈経腸栄養学会雑誌.2016,31(2),p.699-704(うち、p.700-702)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/31/2/31_699/_pdf p.700-702

*4
出所)健康長寿ネット「高齢者の病気>高齢者と薬>服薬支援」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kusuri/shien.html

*5
出所)高齢者の医薬品適正使用の指針「総論編」2018年5月厚生労働省 P.10
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf P.10

*6
出所)公益財団法人 健康・体力づくり事業財団「健康・体力アップ>健康・体力づくりのための知識>認知症を理解する>せん妄」
https://www.health-net.or.jp/tairyoku_up/chishiki/ninchisyou/t03_08_03_05.html

*7
出所)健康長寿ネット「高齢者の病気>老年症候群>抑うつ」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/yoku-utsu.htmlhttps://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/yoku-utsu.html

【そのために用いるエビデンス】
*健康長寿ネット「高齢者の病気>高齢者と薬>薬物療法ガイドライン」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kusuri/guide-line.html
*高齢者の医薬品適正使用の指針「総論編」2018年5月厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf
*健康長寿ネット「高齢者の病気>認知症>認知症高齢者への服薬介助」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/fukuyaku.html
*健康長寿ネット「高齢者の病気>高齢者と薬>高齢者向けの薬の管理」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kusuri/kanri.html
*高齢者の医薬品適正使用の指針「各論編(療養環境別)」2019年6月厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000568037.pdf



【執筆者】
中西 真理
公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。
その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

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