はじめに
笑いは感情を表すだけでなく、心と体に良い影響を与える力を持っています。
特に介護や看護の現場では、利用者や患者さんを笑顔にすることで健康効果を引き出せるでしょう。
最近の研究では、笑いが免疫力を高め、ストレスを減らし、痛みを和らげる効果があることがわかってきています。
この記事では、笑いによる健康効果と、日常のケアに笑いを取り入れる方法について解説します。
ぜひ参考にしてみてくださいね。
– 目次 –
笑いによる健康効果
まずは、笑いが心と体にどんな良い影響を与えるかを解説します。
笑うことと運動との関係
笑うこと自体が、軽い運動になります。
笑うと、体がリラックスしている時よりも消費カロリーが10〜20%増えます。
また、1日10〜15分笑うだけで、エネルギー消費量が10〜40kcal増加するのです。*1
笑うことは有酸素運動と同じような効果があり、生活習慣病の予防にも役立つと考えられています。
免疫力の向上
笑うと免疫力が高まります。
私たちの身体は免疫システムによって有害なものから守られています。
ウイルスや細菌といった感染の原因や、がんのような異常細胞からも守られています。*2
これを免疫力と呼びます。*3
特に、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)という免疫細胞は、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃する力があります。
笑うことでNK細胞が活発になり、免疫力がアップすることがわかっています。*4
笑うことは、感染症やがんの予防に役立つのです。
ストレスの軽減
介護や看護の現場では、仕事の内容の多さや難しさ、勤務時間の長さからストレスを感じやすいでしょう。
同時に、ケアを受ける方もストレスを感じることがあります。
自分のプライドが傷ついたり、病気への恐怖を感じることもあります。
そうした中でも、笑いには、ストレスホルモンのレベルを下げてくれる効果があります。*5
ストレスが多すぎると、うつ病や高血圧、糖尿病などのリスクが高まります。その結果、脳卒中や心臓病が発生してしまうこともあります。
一方で、笑うことで心と体がリラックスし、ストレスが軽減されます。
笑うことでストレスを減らし、血圧や心臓、脳の健康が向上し、病気の予防につながります。*6
認知症や生活習慣病の予防
笑いが多いほど、認知症や生活習慣病のリスクが下がることが研究で分かっています。*7
引用)*7 ライフコースと健康〜笑いとストレス・生活習慣病との関連〜.Comprehensive Medicine.2018;17(1):20-27. p22
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ifcm/17/1/17_20/_pdf
また、毎日声を出して笑う人は、週に1〜5日しか笑わない人に比べて糖尿病のリスクが低いことが確認されています。*8
引用)*8 ライフコースと健康〜笑いとストレス・生活習慣病との関連〜.Comprehensive Medicine.2018;17(1):20-27. p23
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ifcm/17/1/17_20/_pdf
しっかり笑うことが、認知症や糖尿病などの予防に役立つのです。
痛みの緩和
笑うと、エンドルフィンというホルモンが分泌されます。
エンドルフィンには痛みを和らげる効果があります。
がんなどによって慢性的な痛みを抱える患者さんにとって、笑いは痛みを和らげ、生活の質を向上させる助けになります。
実際に、笑いが痛みを感じにくくする効果があることが研究で明らかになっています。*9
笑いを日常のケアに取り入れる方法
次に、笑いをケアに取り入れるための方法を紹介します。
笑いを促進する環境づくり
笑いは自然に生まれるものですが、意識的に笑う場を作ることで効果が高まります。
例えば、定期的に「笑いの日」を設け、職員や利用者が一緒に笑いの時間を楽しむ時間を計画してみてはいかがでしょうか。
そのような日には、ジョークを交えたレクリエーションや、笑いをテーマにしたビデオ鑑賞会を開催してみましょう。
また、施設内の装飾に明るい色を使ったり、壁にユーモアのあるポスターやアートを貼ったりすることで、笑顔が生まれる空間作りを意識することも良いですね。
介護施設や病院でユーモアを交えた会話や軽いジョークを取り入れると、利用者の心が和らぎ、笑顔が引き出されます。
思い出話や面白いエピソードを共有するのも良いでしょう。
スタッフ自身が楽しんでいる姿を示すことで、利用者も自然と笑顔になりやすくなります。
チーム全体で笑いをサポート
介護現場や病院では、スタッフ全体で笑いをサポートする体制を作ることが大切です。
ユーモアを交えたコミュニケーション研修を行って、笑顔を引き出すためのコミュニケーションスキルを向上させるのも一つの方法です。
職員同士が良い関係を築き、笑顔で接することができれば、利用者もその明るい雰囲気を感じ取り、笑いが自然と広がります。
笑いが生まれる環境を整えることは、利用者の健康だけでなく、スタッフの働きやすさにもつながります。
笑いが共有できるコミュニティ作り
笑いは他者と共有することで強まるものです。
笑顔を共有することで、施設内でのコミュニティがさらに強固になります。
笑いが多くの人に広がれば、それだけ施設全体の雰囲気も明るくなり、スタッフや利用者同士の絆が深まります。
特に、グループでの活動やイベントで笑いを取り入れることで、互いに支え合う気持ちが生まれ、ストレスも軽くなるでしょう。
笑いヨガや笑い療法の導入
具体的には、以下のような順序で行っていきます。*11,12
- 深呼吸とストレッチをする
笑いヨガの準備をします。 - 手拍子と合唱をする
子どものような自然な遊び心を引き出していきます。 - 笑いヨガをする
笑いの体操を、立った姿勢や座った姿勢で行っていきます。
笑いヨガをする際に深呼吸と笑いを組み合わせることで、リラックス効果が得られ、心身ともに健康になることが期待できます。
特に、笑いヨガは年齢や身体的な制限に関係なく誰でも参加できるため、介護施設でも簡単に取り入れられます。
実例として、糖尿病の女性患者さんに対し、落語を聞くグループと笑いヨガをするグループに分けて、ストレスホルモンの変化を調べました。*10
その結果、笑いヨガの方が、ストレスホルモンがより大きく減少したことが分かりました。
笑いヨガには、落語を聞くのと同じか、それ以上にストレス解消に役立つ可能性があるのです。
まとめ
笑いは健康を支える強力なツールです。
介護や看護の現場で笑いを取り入れることで、利用者や患者の心と体の健康を保ち、向上させることができます。
今日からでも、ユーモアを交えた会話や笑いヨガを取り入れ、笑顔を増やす取り組みを始めましょう。
小さな笑いが、健康と幸福を支える大きな力になります。
参考文献
- *1 ライフコースと健康〜笑いとストレス・生活習慣病との関連〜.Comprehensive Medicine.2018;17(1):20-27. p24
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/ifcm/17/1/17_20/_pdf
- *2 免疫システムの仕組み 日本免疫学会
- https://www.jsi-men-eki.org/immunology-system/
- *3 Definition of immunity – NCI Dictionary of Cancer Terms
- https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/immunity
- *4 Bennett MP, Zeller JM, Rosenberg L, McCann J. The effect of mirthful laughter on stress and natural killer cell activity. Altern Ther Health Med. 2003 Mar-Apr;9(2):38-45. PMID: 12652882.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12652882/
- *5 Kramer CK, Leitao CB. Laughter as medicine: A systematic review and meta-analysis of interventional studies evaluating the impact of spontaneous laughter on cortisol levels. PLoS One. 2023 May 23;18(5):e0286260. doi: 10.1371/journal.pone.0286260. PMID: 37220157; PMCID: PMC10204943.
- https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0286260
- *6 ストレス・もっと詳しく 、 公益財団法人 大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター
- http://www.osaka-ganjun.jp/health/lifestyle/stress/more.html
- *7 ライフコースと健康〜笑いとストレス・生活習慣病との関連〜.Comprehensive Medicine.2018;17(1):20-27. p22
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/ifcm/17/1/17_20/_pdf
- *8 ライフコースと健康〜笑いとストレス・生活習慣病との関連〜.Comprehensive Medicine.2018;17(1):20-27. p23
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/ifcm/17/1/17_20/_pdf
- *9 Weisenberg M, Tepper I, Schwarzwald J. Humor as a cognitive technique for increasing pain tolerance. Pain. 1995 Nov;63(2):207-212. doi: 10.1016/0304-3959(95)00046-U. PMID: 8628586.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8628586/
- *10 ライフコースと健康〜笑いとストレス・生活習慣病との関連〜.Comprehensive Medicine.2018;17(1):20-27. p25
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/ifcm/17/1/17_20/_pdf
- *11 日本笑いヨガ協会
- https://www.waraiyoga.org/warai-yoga
- *12 The Question: What are the effects on Laughter Yoga on stress in the workplace?
- https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/immunity
nishicherry2480(本名:木村香菜)
行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。