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介護情報・コラム

【2023年12月施行】旅館業法改正|変更点・お泊りデイサービスに関する注意点を弁護士が解説

2024/01/17

【2023年12月施行】旅館業法改正|変更点・お泊りデイサービスに関する注意点を弁護士が解説

執筆者:阿部 由羅(ゆら総合法律事務所・代表弁護士)

 

2023年12月13日から改正旅館業法が施行され、宿泊拒否事由の追加・感染防止対策の充実・差別防止の更なる徹底などに関する規制の変更が行われました。

お泊りデイサービスについても、運営方法によっては旅館業の許可を要し、旅館業法が適用されることがあります。旅館業の許可を要するお泊りデイサービスの運営事業者は、改正旅館業法の内容を正しく理解しておきましょう。

本記事では、2023年12月13日に施行された改正旅館業法による変更点や、お泊りデイサービスの運営事業者が注意すべきポイントなどを解説します。

 

凡例
法……旅館業法
規則……旅館業法施行規則

 

 

【2023年12月施行】旅館業法改正による変更点

2023年12月13日に施行された改正旅館業法では、以下の4点が変更されました。

    • 変更点1
      カスタマーハラスメントに関する宿泊拒否事由の追加

    • 変更点2
      感染防止対策の充実

    • 変更点3
      差別防止の更なる徹底等

  • 変更点4
    事業譲渡に係る手続きの整備

 

変更点1|カスタマーハラスメントに関する宿泊拒否事由の追加

旅館業を営む者(=営業者)は、原則として宿泊しようとする者の宿泊を拒んではなりません(法5条1項)。

 

ただし例外的に、以下のいずれかに該当する場合は宿泊を拒否できます(同項各号)。

(1)宿泊しようとする者が特定感染症※の患者等であるとき。
※特定感染症:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく一類感染症・二類感染症・新型インフルエンザ等感染症・指定感染症・新感染症

(2)宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為または風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき。

(3)宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。

(4)宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。

 

上記のうち(3)の宿泊拒否事由は、2023年12月13日に施行された改正旅館業法によって追加されたものです。
いわゆるカスタマーハラスメントを念頭に置いたもので、具体的には以下の要求(=特定要求行為)がなされた場合には宿泊を拒否できます(規則5条の6)。

(a)宿泊料の減額その他のその内容の実現が容易でない事項の要求
※宿泊に関して障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律2条2号に規定する社会的障壁の除去を求める場合を除く

(b)粗野または乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動※を交えた要求であって、当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるもの
※営業者が宿泊しようとする者に対して障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条1項の不当な差別的取扱いを行ったことに起因するもの、その他これに準ずる合理的な理由があるものを除く

 

事業者としては、宿泊しようとする者の行為が特定要求行為に当たるかどうかを適切に判断することが大切です。以下の具体例を参考にしてください。

特定要求行為の具体例
  • 他の宿泊者に対するサービスと比較して、過剰なサービスを提供するよう繰り返し求める行為(たとえば不当な宿泊料の割引、慰謝料、部屋のアップグレード、レイトチェックアウト、アーリーチェックイン、送迎など)
  • 宿泊する部屋の上下左右の部屋に、他の宿泊客を入れないよう繰り返し求める行為
  • 特定の従業員による応対や、特定の従業員を出勤させないことを繰り返し求める行為
  • 従業員に対し、土下座などの社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める行為
  • 泥酔した状態で、従業員に対して長時間にわたる介抱を繰り返し求める行為
  • 従業員に対して、長時間にわたり、または叱責しながら不当な要求を繰り返す行為
  • その他、要求の内容の妥当性に照らして、その要求を実現するための手段や態様が不相当な行為

 

特定要求行為に該当しない行為の具体例
  • 障害者が社会的障壁の除去を求める行為(たとえば難聴を理由に筆談でのコミュニケーションを求めること、車椅子利用者がベッドへ移動する際の介助を求めることなど)
  • 障害を理由とする不当な差別的取り扱いを受けたことを理由に、謝罪などを求める行為
  • 障害の特性による行為であって、そのことを本人や同行者に聴くなどして把握できるもの
  • 営業者の故意または過失によって損害を被ったことを理由に、相当な方法によって何らかの対応を求める行為

 

変更点2|感染防止対策の充実

新型コロナウイルス感染症の流行などを踏まえて、改正旅館業法では以下の変更が行われ、感染症対策の充実化が図られました。

  • 特定感染症が国内で発生している期間において、まん延防止に必要な限度で、宿泊客に必要な協力を求めることができるようになりました(法4条の2)。 ※ただし、宿泊客が協力を拒んだとしても、宿泊拒否事由に該当しない限り宿泊を拒否することはできません。
  • 宿泊拒否事由の一つとして、従来は「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」が挙げられていましたが、「特定感染症の患者等であるとき」と明確化されました(法5条1項1号)。
  • 障害の特性による行為であって、そのことを本人や同行者に聴くなどして把握できるもの
  • 感染防止対策の観点から、宿泊者名簿の記載事項として「連絡先」が追加されました(法6条)。

※その一方で、「職業」は記載事項から削除されました。

 

変更点3|差別防止の更なる徹底等

宿泊拒否や感染防止対策について営業者側の権限を強化する一方で、感染症患者や障害者などに対する不当な差別が行われないように、営業者には以下の義務および努力義務が新たに課されました。

  • 感染防止対策を適切に講じ、かつ高齢者や障害者などの特性に応じた適切な宿泊サービスを提供するため、従業員に必要な研修の機会を与えるよう努めなければならないとされました(法3条の5第2項)。
  • 旅館業の公共性を踏まえ、かつ宿泊しようとする者の状況等に配慮してみだりに宿泊を拒否しないこと、および宿泊拒否事由の該当性を客観的な事実に基づいて判断し、求めがあればその理由を丁寧に説明することが義務付けられました(法5条2項)。
  • 特定感染症の患者等であること、または特定要求行為をしたことを理由に宿泊を拒んだときは、当分の間その理由等を記録することが義務付けられました(改正法附則3条2項)。

 

変更点4|事業譲渡に係る手続きの整備

旅館業の営業者が事業を譲渡する場合、譲受人は都道府県知事(保健所を設置する市または特別区では、市長または区長)の承認を受ければ、新たな許可を要せず営業者の地位を承継するものとされました(法3条の2第1項)。
上記の規定によって営業者の地位を承継した者については、当分の間、承継日から6か月以内に少なくとも1回、都道府県知事等による業務状況の調査が行われます(改正附則3条1項)。

 

お泊りデイサービスに関する旅館業の許可の要否

いわゆる「お泊りデイサービス」については、介護事業の一環として行われる限り、旅館業法の適用外とする運用がなされています。

ただし、以下のいずれかに該当する場合には、旅館業の許可を受けた上で旅館業法の規制を遵守しなければなりません。

    • 日中に行うデイサービスの利用者でない者を宿泊させる場合

    • デイサービス以外の設備で宿泊サービスを提供する場合

  • 食費実費相当額を超えて、宿泊料に相当する費用を徴収する場合
  • など

 

旅館業の許可を受けずにお泊りデイサービスを運営する場合は、必要に応じて顧問弁護士のアドバイスを受けながら、事業の内容・形態を許可が不要となる範囲内にとどめましょう。

 

まとめ

旅館業の許可を受けてお泊りデイサービスを運営する事業者は、2023年12月13日に施行された改正旅館業法への対応が求められます。
改正法の内容を正しく理解した上で、運営方法を最新の規制に適合させましょう。

 

【執筆者】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
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