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介護情報・コラム

【2024年1月全面施行】介護事業者が押さえておくべき電子帳簿保存法(電帳法)対応 弁護士がまとめて解説

2024/01/31

【2024年1月全面施行】介護事業者が押さえておくべき電子帳簿保存法(電帳法)対応 弁護士がまとめて解説

執筆者:阿部 由羅(ゆら総合法律事務所・代表弁護士)


2024年1月より、電子帳簿保存法(電帳法)の改正法が全面施行されました。特に、電子媒体で受領した取引データ(=電子取引データ)をデータのまま保存することが義務付けられ、印刷保存が不可となった点が注目されます。

介護事業者においても、電子帳簿保存法への対応は必須となります。未対応の事業者は最低限の対応事項を確認し、対応済みの事業者も新制度のポイントを再点検しましょう。

本記事では、介護事業者が行うべき改正電子帳簿保存法対応のポイントをまとめて解説します。



改正電子帳簿保存法のポイント|大部分は2022年1月に施行済み

電子取引データの印刷保存の廃止(=データによる保存の完全義務化)で注目される改正電子帳簿保存法ですが、実はすでに2022年1月から施行されていました。
改正電子帳簿保存法による変更のポイントは、以下のとおりです。改正点の詳細については、国税庁のリーフレット*1をご参照ください。

(1) 電子帳簿等保存に関する改正
  • 税務署長の事前承認制度の廃止
  • 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の導入
  • 最低限の要件を満たす電子帳簿についても、データ保存が可能になった

(2) スキャナ保存に関する改正
  • 税務署長の事前承認制度の廃止
  • タイムスタンプ要件、検索要件等の緩和
  • 適正事務処理要件の廃止
  • スキャナ保存されたデータに関する不正があった場合の重加算税の加重措置の導入

(3) 電子取引に関する改正
  • タイムスタンプ要件、検索要件の緩和
  • 電子取引データの印刷保存の廃止(=データによる保存の完全義務化)
  • 電子取引データに関する不正があった場合の重加算税の加重措置の導入

※電子帳簿等保存=会計ソフトなどで作成した帳簿や決算関係書類を、電子データのまま保存すること

※スキャナ保存=紙で作成または受領した書類を、スキャンした上で画像データとして保存すること

※電子取引=取引情報(注文書、契約書、送り状、領収書、見積書など)の授受をデータによって行う取引


電子取引データの印刷保存の廃止|2024年1月から全面施行

上記の改正電子帳簿保存法に関する変更ポイントのうち、介護事業者が必ず対応しなければならないのは「電子取引」に関する改正です。電子帳簿等保存とスキャナ保存は任意なので、直ちに対応しなくても構いません。

電子取引に関する改正において最も重要なのは、電子取引データの印刷保存が廃止され、データのまま保存することが完全義務化された点です。
電子取引データの印刷保存の廃止についても、2022年1月から施行されていましたが、未対応の事業者が多い状況を踏まえて、2年間の宥恕措置(猶予措置)が設けられていました。

2023年までで宥恕措置が終了したため、2024年以降はすべての事業者において、電子取引データをデータのまま保存することが義務付けられます。
介護事業者においても、電子取引データ保存に関する改正への対応が必要です。


電子取引データの保存方法|真実性・可視性の要件に注意

電子取引データの保存に当たっては、「真実性」と「可視性」の要件をいずれも満たす必要があります。
介護事業者においては、自社におけるデータ保存の方法を点検し、真実性と可視性の要件を満たしているかどうかを確認しましょう。

真実性の要件

「真実性」とは、保存したデータが改ざんされていないことを意味します。
電子取引データを保存する際には、データの改ざんを防止するため、以下の(a)から(d)のうちいずれかの措置を講じなければなりません(いずれか1つで構いません)。

(a) タイムスタンプを事前に付与する

(b) 締結後速やかにタイムスタンプを付与し、保存者または監督者の情報を確認できるようにする

(c) 訂正・削除の履歴を確認できるようにするか、または訂正・削除ができないシステムを利用する

(d) 不正な訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、当該規程に沿って保存する


(a)および(b)についてはタイムスタンプの付与、(c)についてはシステムの導入が必要であり、中小企業にとってはハードルが高いと思われます。

これに対して(d)は、事務処理規程を定めて適切に運用するだけでよく、導入コストが低いため、中小企業にとっても比較的取り組みやすいでしょう。
国税庁ウェブサイトでは、事務処理規程のサンプル*2が公開されていますので、適宜アレンジしてご利用ください。

可視性の要件

「可視性」とは、データの内容をスムーズに出力して確認できることを意味します。
電子取引データを保存する際には、税務調査の際にその内容をスムーズに確認できるようにするため、原則として以下の(a)から(c)の措置をすべて講じなければなりません。

(a) データの備付け・保存場所に電子計算機(PCなど)・プログラム・ディスプレイ・プリンタと各操作説明書を備え付け、データをディスプレイの画面および書面に、整然とした形式および明瞭な状態で、速やかに出力できるようにする


(b) 以下の要件をすべて満たす検索機能を確保する
  • 取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索条件として設定できること
  • 日付と取引金額については、範囲を指定して検索条件を設定できること
  • 2以上の任意の記載項目を組み合わせて検索条件を設定できること

(c) 以下の書類を備え付ける
  • 電子計算機処理システムの概要書(自作のプログラムを使用している場合のみ)
  • 電子計算機処理システムの開発時に作成した書類(自作のプログラムを使用している場合のみ)
  • 電子計算機処理システムの操作説明書(自作のプログラムを用いておらず、データ処理を外部委託している場合は不要)
  • データの備付けおよび保存に関する事務手続きを明らかにした書類


(a)の機器については、業務用のものが既に用意されていれば、それを利用すればOKです。操作説明書をすぐに出せるように整理しておきましょう。

(c)については、自作のプログラムを使用していなければ、注意すべきポイントは多くありません。真実性の要件との関係でも対応が求められている、データ保存等に関する事務処理規程を備え付けておけばよいでしょう。

最も対応が難しいのが(b)(=検索機能の確保)ですが、前々事業年度における売上高が5,000万円以下の事業者については、検索機能の確保が不要とされているので、特に対応しなくても構いません。

これに対して、前々事業年度における売上高が5,000万円を超える事業者は、原則として検索機能の確保が必要です。 最も簡便な方法としては、電子データのファイル名に日付・取引先・金額を記載することが考えられます(例:「請求書_20240101_○○株式会社_1000000円.pdf」)。そうすれば、エクスプローラの検索機能を利用してデータを検索できます。



介護事業者による改正電子帳簿保存法対応のまとめ

上記の内容をまとめると、介護事業者が改正電子帳簿保存法に対応する際には、以下の内容を頭に入れておくとよいでしょう。

  • 電子帳簿等保存およびスキャナ保存は任意なので、対応しなくてもよい。
  • 電子取引データは、2024年以降は印刷保存が不可となり、データのまま保存する必要がある。
  • 電子取引データを保存する際には、事務処理規程と出力用機器(PC、ディスプレイ、プリンタなど)を準備する。出力用機器については、操作説明書を整理しておく。
  • 電子取引データの検索機能は、前々事業年度における売上高が5,000万円以下であれば不要。前々事業年度における売上高が5,000万円を超える場合は、電子データのファイル名に日付、取引先、金額を記載するなどして対応する。


*1)国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf

*2)国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm



【執筆者】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
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