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介護情報・コラム

就職お祝い金の禁止とは? 規制強化の影響と事業者の対応を弁護士が解説

2025/01/09

就職お祝い金の禁止とは? 規制強化の影響と事業者の対応を弁護士が解説

「就職お祝い金」の提供は、職業紹介事業者(転職エージェントなど)についてはすでに禁止されています。

2025年4月から、新たに募集情報等提供事業者(求人サイト運営者など)についても、就職お祝い金の提供が禁止されます。
介護事業者が求人サイトに広告を出す際には、コンプライアンスの観点から、求人サイトの運営会社が就職お祝い金を提供していないかどうかをチェックしましょう。

本記事では「就職お祝い金」とは何か、なぜ提供が禁止されるのか、介護事業者が求人広告を出す際の注意点などを解説します。

就職お祝い金とは

「就職お祝い金」とは、転職エージェントや求人サイトの運営会社などが、就職(転職)が決まった人に対して、そのお祝いとして提供する金銭などをいいます。

就職お祝い金を提供すると、それに魅力を感じた就職希望者が数多く集まります。就職希望者を効果的に集客することを目指して、多くの転職エージェントや求人サイトが就職お祝い金を提供してきました。

しかし、就職お祝い金の提供には弊害があるため、法令によって規制が設けられています。

就職お祝い金に関する法規制の状況

転職エージェントなどの「職業紹介事業者」に対しては、2021年4月に施行された職業安定法に基づく指針の改正により、就職お祝い金の提供が原則として禁止されています*1。

従来は指針レベルでの規制でしたが、2025年1月からは、就職お祝い金の提供の原則禁止が職業紹介事業者の許可条件に追加されます。
許可条件に違反した職業紹介事業者は、職業紹介事業の許可を取り消される可能性があります。

さらに2025年4月からは、求人サイトなどの「募集情報等提供事業者」に対しても、就職お祝い金の提供が原則として禁止されます*2。

就職お祝い金の提供が原則禁止される理由

就職お祝い金の提供が原則として禁止されることになった背景には、就職希望者が人材サービスの質に注目して、利用するサービスを自主的かつ合理的に選択できるようにしたいという思惑があります。

就職お祝い金が提供されることは、就職希望者にとって分かりやすい金銭的なメリットです。
しかし、就職お祝い金を提供している事業者のサービスが、必ずしも良いものであるとは限りません。就職お祝い金を「エサ」に就職希望者を大量に集めているものの、実際には粗悪なサービスを提供しているという可能性もあります。

就職お祝い金が提供されていると、それに就職希望者の目がくらんで、質の良い人材サービスを見極めることが難しくなります。このような弊害を防ぐため、就職お祝い金の提供が原則として禁止されることとなりました。

また、就職お祝い金を繰り返し得るために、複数回にわたって就職と離職を繰り返す例が続出していることも問題視されていました。
さらに、就職が決まった人が就職お祝い金を得ようとして、複数の求人サイトに対して採用決定の報告をした結果、企業が二重・三重に成功報酬を請求されるなどの問題も発生していました。
こうした状況も、就職お祝い金に関する規制強化を後押しする形となっています。

2025年4月施行|募集情報等提供事業者による就職お祝い金の提供禁止

2025年4月からは、求人サイトの運営会社などが該当する「募集情報等提供事業者」に対しても、就職お祝い金の提供が原則として禁止されます。
求人サイトに広告を出している介護事業者は、就職お祝い金に関する新たな規制の内容を理解しておきましょう。

募集情報等提供事業者とは

「募集情報等提供事業者」とは、労働者の募集に関する情報(求人情報)や、労働者になろうとする者(就職希望者)の情報を集めて、職業紹介事業者や就職希望者に提供する事業を営む者をいいます。
求人サイトの運営会社などが、募集情報等提供事業者の典型例です。

募集情報等提供事業者は、職業安定法の規制を遵守する必要があります。職業安定法の規制に違反すると、行政処分や行政指導の対象となります。

提供禁止の対象となる就職お祝い金の具体例

2025年4月以降、募集情報等提供事業者が就職お祝い金を提供することは、原則として禁止されます。

就職お祝い金には、金銭のほか、金銭と同じように利用できるものが含まれます。一例として、ギフト券やカード・アプリのポイントなども就職お祝い金に該当します。

例外的に就職お祝い金の提供が認められるケース

改正職業安定法指針では、募集情報等提供事業者に対して、「社会通念上相当と認められる程度」を超える就職お祝い金の提供を禁止しています。
したがって、「社会通念上相当と認められる程度」の範囲内であれば、改正職業安定法指針の違反には該当しません。

「社会通念上相当と認められる程度」の範囲内かどうかは、就職者の定着率の低下や、報酬の重複請求などのトラブルを生じさせるおそれがないかどうかの観点から総合的に判断されます。
主な考慮要素は以下のとおりです。

  • 提供される金銭等の趣旨、額、経済的価値、提供手法
  • 提供される金銭等の有する離転職誘引効果
  • 複数事業者からの料金請求等に伴うトラブルが生じやすい、または生じてきた形態かどうか
    など

厚生労働省が公表しているリーフレット*2では、就職お祝い金の提供禁止に該当しないものとして、以下の2つの例を挙げています。

  • 提供するサービスの質の向上を図るため、サービス利用者からアンケート等への回答を求める場合であって、回答者すべてに対してではなく、抽選による少数者に対して、500円程度の電子ギフト券等を提供するもの。
  • イベント来場者を確保するため、転職フェアへの来場及びブース訪問者に対して、500円程度の電子ギフト券等を提供するもの(求人サイトへの登録の対価として提供されるものを除く)。

なお、「社会通念上相当と認められる程度」の範囲内であっても、就職お祝い金を提供することは好ましくないとされています。
求人サイトなどが就職希望者の登録を集める際には、サービスの質を向上させてそれを訴求すべきであって、就職お祝い金に頼るべきではないと考えられるためです。

介護事業者が求人広告を出す際には、就職お祝い金についてチェックすべき

2025年4月以降、求人サイトなどが就職お祝い金を提供することは職業安定法違反となります。
違反事業者は、行政指導や行政処分の対象となることがあります。違反事業者が運営するサイトに広告を出していると、違反の事実や行政処分などが大々的に報道された際、自社も風評被害を受けてしまうことになりかねません。

就職希望者向けの募集ページなどを確認すれば、就職お祝い金を提供しているかどうかを把握できることがあります。介護事業者が求人広告を出す際には、コンプライアンスの観点から、就職お祝い金を提供していないかどうかをチェックしましょう。

参考文献

*1 厚生労働省「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供して求職の申し込みの勧奨を行うことを禁止しました」
https://www.mhlw.go.jp/content/000747063.pdf
*2 厚生労働省「募集情報等提供事業者の皆さまへ 労働者に金銭やギフト券等を提供することは原則禁止になります」
https://www.mhlw.go.jp/content/001328411.pdf
【執筆者】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
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