資料請求
介護情報・コラム

【2025年(令和7年)4月施行】雇用保険法改正について弁護士が解説

2025/03/18

2025年(令和7年)4月施行|雇用保険法改正について弁護士が解説

2025年4月から、雇用保険法等改正が施行されます。

雇用保険法等改正は段階的に施行されており、2025年4月施行分では主に雇用保険の給付内容の見直しなどが行われます*1。
介護事業者においては、特に自己都合退職者に対する基本給付に関する見直しや、育児休業等給付に関する変更に留意しましょう。

本記事では、2025年4月から施行される雇用保険法改正による変更点について、介護事業者が留意すべき主なポイントを中心に解説します。

2025年4月施行
雇用保険法改正の概要・スケジュール

2024年5月17日に、改正雇用保険法が公布されました。

改正法は、2024年10月1日から2028年10月1日までにかけて段階的に施行される予定です。改正内容に関する詳細は、厚生労働省の資料*1*2をご参照ください。

施行期日

改正内容

公布日(2024年5月17日)

  • 育児休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置の廃止
  • 介護休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置の2026年度(令和8年度)末までの継続

2024年10月1日 

  • 教育訓練給付金の給付率引上げ(受講費用の最大70%→80%)

2025年4月1日

  • 自己都合退職者が、教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除
  • 就業促進手当の見直し(就業手当の廃止及び就業促進定着手当の給付上限引下げ)
  • 育児休業給付に係る保険料率引上げ(0.4%→0.5%)及び保険財政の状況に応じて保険料率引下げ(0.5%→0.4%)を可能とする弾力的な仕組みの導入
  • 教育訓練支援給付金の給付率引下げ(基本手当の80%→60%)及び当該暫定措置の2026年度(令和8年度)末までの継続
  • 雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置の2026年度(令和8年度)末までの継続
  • 「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」の創設
  • 子ども・子育て支援特別会計の創設
  • 高年齢雇用継続給付の給付率引下げ(15%→10%)

2025年10月1日

  • 「教育訓練休暇給付金」の創設

2028年10月1日

  • 雇用保険の適用拡大(週所定労働時間「20時間以上」→「10時間以上」)

雇用保険法等改正のポイント1
自己都合退職者に対する基本手当の給付制限緩和

2025年4月以降、自己都合退職者が雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受給するに当たり、支給開始までの給付制限が緩和されます。

何らかのやむを得ない事情によって退職した人(特定受給資格者または特定理由離職者)は、支給申請を行ってから7日間(=待期)が経過すると、雇用保険の基本手当を受給できます。
これに対して自己都合退職者は、待期が満了した日の翌日から2か月(5年以内に2回を超える場合は3か月)の給付制限期間が経過しないと、雇用保険の基本手当を受給できないものとされていました。

2025年4月1日以降、雇用保険法や関連法令・通達の改正によって、自己都合退職者に対する基本手当の給付制限が以下のとおり緩和されます。

  1. 自己都合退職者の給付制限期間の短縮
  2. 教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除

自己都合退職者の給付制限期間の短縮

2025年4月1日以降、自己都合退職者の給付制限期間が以下のとおり短縮されます。

改正前

原則:待期が満了した日の翌日から2か月
5年以内に2回を超える場合:待期が満了した日の翌日から3か月

改正後

原則:待期が満了した日の翌日から1か月
5年以内に3回を超える場合:待期が満了した日の翌日から3か月

教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除

従来は、自己都合退職者がハローワークの指示を受けて公共職業訓練等を受講した場合、基本手当の給付制限が解除されることになっていました。

2025年4月1日以降は、上記の場合に加えて、自ら雇用の安定および就職の促進に資する教育訓練を行った場合にも、基本手当の給付制限が解除されるようになります。

雇用保険法等改正のポイント2
出生後休業支援給付・育児時短就業給付の創設

2025年4月から、育児を行う労働者のために、新たに「出生後休業支援給付」と「育児時短就業給付」が創設されます。

出生後休業支援給付*3とは

「出生後休業支援給付」は、子の出生直後の期間に育児休業を取得する労働者に対し、育児休業給付金に上乗せする形で行われる給付です。

従来からある育児休業給付金は、育児休業期間のうち休業開始から通算180日までは賃金の67%(手取りベースで80%相当)、180日経過後は賃金の50%に相当する額が支給されます。

2025年4月1日以降は、一定の条件を満たす育児休業取得者は、育児休業給付金に加えて出生後休業支援給付金を受給できるようになります。

出生後休業支援給付の支給条件は、以下のとおりです。育児休業給付金と出生後休業支援給付を合わせると、休業開始前賃金の80%相当額(手取りベースで100%相当)となります。

対象となる育児休業

以下の期間に取得する育児休業のうち、最大28日間
男性:子の出生後8週間以内
女性:産後休業後8週間以内

満たすべき要件

原則として、本人と配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得すること
※配偶者が専業主婦(専業主夫)の場合や、ひとり親家庭である場合などには、配偶者の育児休業取得は不要

支給額

休業開始前賃金の13%相当額

育児時短就業給付*4とは

「育児時短就業給付」は、育児のために短時間勤務を行っている労働者を対象とした給付金です。

従来は、育児のための短時間勤務制度を利用した結果、賃金が低下した労働者に対して給付を行う制度はありませんでした。2025年4月1日以降は、こうした労働者が育児時短就業給付金を受給できるようになります。

育児時短就業給付の支給条件は、以下のとおりです。

満たすべき要件

  1. 2歳未満の子を養育するために、1週間当たりの所定労働時間を短縮して勤務していること(=育児時短休業)
  2. 以下のいずれかの要件を満たすこと
    • 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続き、同一の子について育児時短就業を開始したこと
    • 育児時短就業の開始日前2年間に、完全月が12か月以上あること
    • 完全月:賃金支払基礎日数が11日以上、または賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上ある月

支給額

時短勤務中に支払われた賃金額の10%

雇用保険法等改正によって、介護事業者に生じ得る影響

2025年4月1日以降、自己都合退職者が雇用保険の基本手当を受給しやすくなります。これまで以上に、労働者の転職が促進されることになるでしょう。
介護事業者においては、従業員の離職を防ぐため、職場の魅力の高める取り組みを行うことが求められます。

また、育児休業に関して新たに創設される出生後休業支援給付金と育児時短就業給付金については、従業員から申し出を受けた場合は介護事業者が受給資格の確認と支給申請の手続きを行うことになります。
厚生労働省のリーフレット*3*4などを参考にしつつ、新制度の内容を正しく踏まえたうえで対応しましょう。

参考文献

*1 参考)厚生労働省「令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001293213.pdf
*2 参考)厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001255172.pdf
*3 参考)厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001374956.pdf
*4 参考)厚生労働省「育児時短就業給付の内容と支給申請手続」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001395073.pdf
【執筆者】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
arrow_upward