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介護情報・コラム

信頼できる上司の特徴とは?在宅介護で7年間働いた私が、最も信頼した上司の想い出

2023/03/14

【コラム】信頼できる上司の特徴とは? 【コラム】信頼できる上司の特徴とは?

「私は看護師として、在宅介護の分野で7年間勤務しました。 その間、異動で4人の上司と働いた経験があります。 親しみやすく何でも話しができる上司、決断力がある上司など、4人はそれぞれ違うタイプの上司でした。
その中でも、私が最も信頼し「この人とずっと働き続けたい」と思った上司がいます。

それは、「言葉遣いが悪く、ズバズバ言いたいことを言うけれど、“仕事で大切なことは、利用者さんのためになるかどうか”」と言い続けた上司でした。


言葉遣いの悪い上司だけれど、利用者さんから好かれていた

その上司が私の所属する事業所に異動してくると聞いた瞬間、「うわ、マジか…」と思いました。
というのも、それまでその上司とは会ったことはなかったものの、周囲の話からいい印象をもてなかったからです。

言葉遣いが悪い、自分の思ったことは誰に対してもズバズバ言う、人の好き・嫌いがはっきりしている…。 中には、その上司のことを「苦手だ」と言うスタッフも少なくありませんでした。

このような話から、とっつきにくく、一度嫌われたら業務に支障をきたすと思ったのです。

そして、ついにその上司が事業所に異動してきました。 実際に会って話した印象は、周囲の話とそれほど相違はありませんでした。
スタッフが技術的に未熟なところもズバッと指摘するので、「もう少し、やんわり言ってあげたらいいのに…」と思ったことも度々あります。
ただ、上司と一緒に働く時間が長くなるにつれて、最初に抱いていた悪いイメージは少しずつ薄れていきました。


利用者さんの心身に関わる情報や注意点を申し送りをするのは、看護師である私の仕事のひとつです。

「Aさんは、骨粗しょう症があって骨折しやすいので、移乗の介助をするときは慎重に行ってほしい」
「Bさんはとても不安が強いので、介助する前には必ず丁寧に声掛けをしてほしい」

このような話しはきちんと聞いてくれ、実際の現場でも忘れずに行ってくれました。 その様子から、仕事に対して真面目に考えている様子が伝わってきました。

そして、その上司と一緒に仕事をするにつれて、利用者さんやご家族から好かれていることにも気づいたのです。 訪問すると、「あなたが来てくれて嬉しいわ」と言われることも多々ありました。


「仕事の目的は、利用者さんのためと思ってやること」

ある日、一日の業務が終わり、カルテの記入や備品の整備などをしていたところ、上司が私たちスタッフに向かってこう言いました。

「利用者さんのためと思ってやったことで、もし失敗したとしても、その責任は俺がとる。それが俺の仕事だから」

どういう流れで上司がこの言葉を言ったのかは、全く思い出せません。 でも、そのときの上司の真剣な顔だけは、しっかりと覚えています。

正直、この言葉を聞いたときは本当にびっくりしました。 上司がこんなことを言うなんて、全く想像していなかったからです。

その日の帰り道、私はこの上司の言葉を何度も思い出しながら帰りました。 「責任をとるのが俺の仕事」とはいえ、部下のミスの責任をとるなんて、本当はやりたくないでしょう。

介護の仕事は、人間が相手です。

一歩間違えば、ケガをさせてしまったり、最悪の場合は命に関わることもあります。 何か気に障ることがあれば、契約を解除されるケースも珍しくありません。
それなのに、上司は部下の前で堂々と言い切ったのです。 だんだんと、自分たちスタッフを信頼してくれていることが分かり、本当に嬉しくなりました。

その後、上司とは仕事終わりに飲みに行ったり、プライベートの相談をさせてもらうなど、とてもよくしていただきました。 上司が退職するまで、私は幸いにもその上司に責任をとってもらうような大きなミスはしなかったと記憶しており、少しは恩返しができたかなと思っています。

利用者さんに関わることには全力で、そうでない雑務は徹底的に手を抜く。
上司のもとでは、そんなメリハリのある働き方ができました。 私の介護人生の中で、間違いなく一番信頼していた上司です。


言葉遣いの悪い上司が信頼できた理由

私の経験の中から、信頼できる上司とのエピソードをご紹介しました。 このエピソードから、なぜこの上司が信頼できると思えたのか、考えていきたいと思います。

(1)仕事の目的を明確にしてくれた

「利用者さんのためと思ってやったことで、もし失敗したとしても、その責任は俺がとる。それが俺の仕事だから」 この言葉で、上司は「私たちの仕事の基準は、利用者さんのためになるかどうか」だと明言しました。

東京ディズニーランドやホテルなどを運営する東京ディズニーリゾートでは、キャスト(働く人)のゴールを「We Create Happiness ハピネスの創造」とし、ディズニーテーマパーク共通の「The Five Keys~5つの鍵~」という行動規準に基づき、すべてのキャストが判断、行動しています。*1
そのため、細かい接客マニュアルは存在しません。 パーク内を掃除するキャストが、ほうきで地面にキャラクターの絵を書いて、お客さんを楽しませてくれるのは有名な話です。

多くの介護事業所ではマニュアルがあると思いますが、私は必ずしも全てをマニュアル通りに行うことが正しいとは思っていません。 なぜなら、相手が人間である以上、いつもマニュアル通りにいくとは限らないからです。
特に在宅介護では、利用者さんの心身の状態だけでなく、住宅環境や家族の介護状況などいろんな要素から必要な介助を瞬時に判断する必要があります。

マニュアルがあることで、どのスタッフでも一定水準以上の介護を提供でき、スタッフとしてもやるべきことに迷いがなくなるというメリットはあるでしょう。 ただ、マニュアルを守りすぎると、マニュアルを守ることが目的となってしまい、目の前の利用者さんを置き去りにしてしまう可能性があります。 これでは、本末転倒です。

上司のこの言葉は、仕事の目的を明確にしてくれました。 おかげで、私は目の前の利用者さんにとって最善のことを考えながら仕事に取り組むようになり、やりがいをより感じるようになりました。

(2)言動が一致している

確かにその言葉通り、上司自身も利用者さんのためにならないことは徹底的に行いませんでした。

本社から、新規利用者獲得のためにケアマネジャーのいる居宅介護支援事業所へ定期的な営業活動を行うようにと指示されることが度々ありました。
しかし、上司はその指示を完全に無視し、一度も営業にはいきませんでした。 私たちスタッフにも「営業には行かなくていい。なぜ行かないのかと言われたら、俺に行かなくていいと言われたからと言うように」と指示しました。

上司は、最大の営業は今いる利用者さんに丁寧な介護を提供することだと考えたのです。
営業に行くということは、利用者さんの自宅に滞在する時間やスタッフの休憩時間を減らすか、残業するしかありません。 ただでさえ時間がないのに、そんなことをしたら介護の質が低下してしまいます。

実際に、私たちは営業活動を一切しませんでした。
本社から私たちへは、何もお咎めはありません。 他の事業所で管理職を務める人に話を聞いたところ、上司は本社で行われる会議で何を言われても「営業はしない」と一点張りだったそうです。

その結果、利用者数は減るどころか、少しずつ増えていきました。
「最大の営業は、今いる利用者さんに丁寧な介護を提供すること」という、上司の考え通りになったのです。


ここで、ひとつのデータを紹介します。
日本能率協会が2022年に新入社員向け公開教育セミナーの参加者を対象に、仕事や働くことに対しどのような意識を持っているか調査を行ったところ、理想的だと思う上司や先輩は「仕事について丁寧な指導をする上司・先輩」が最も多く、次いで「言動が一致している上司・先輩」という結果でした。*2

あなたが理想的だと思うのはどのような上司や先輩ですか。2022年度「新入社員意識調査」(一般社団法人日本能率協会)

出典:2022年度「新入社員意識調査」(一般社団法人日本能率協会)



いくらいいことを言っても、行動が伴っていなければ信頼できません。 その上司は、誰に対しても同じことを言い、その通りに行動し続けました。


まとめ

信頼できる・できないの基準は曖昧で、その人によって感じ方に違いはあるでしょう。
ただ、上司としての役割を考えると「仕事の目的を明確にすること」と「言動が一致していること」は重要なポイントではないでしょうか。

上司のあり方は、職場の雰囲気を左右し、部下のモチベーションに影響を与えます。 そして信頼できる上司との出会いは、ずっとその人の心に残り続けます。
今、私に部下はいませんが、もし上司になったらこうありたいなと思っています。



【参考サイト】
*1
参考)オリエンタルランド「パーク運営の基本理念」
http://www.olc.co.jp/ja/tdr/profile/tdl/philosophy.html
*2
参考)2022年度「新入社員意識調査」(一般社団法人日本能率協会) P2
https://jma-news.com/wp-content/uploads/2022/09/20220912_new_employees_2022.pdf


【執筆者】
浅野すずか
フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた記事を執筆。


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