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介護情報・コラム

対応が難しい利用者や家族とどう関わる?自己肯定感を保ちながらいきいきと働くために

2023/07/06

対応が難しい利用者や家族とどう関わる?自己肯定感を保ちながらいきいきと働くために

執筆者:浅野すずか(元看護士)


利用者や家族とよい関係性ができ、信頼してもらえていると実感すると、仕事へのやりがいが高まるものです。

しかし、利用者やご家族全員が職員に対して好意的な対応をしてくれるかというと、残念ながらそうではありません。
強いこだわりを押し付ける人、横暴な態度や言動の人など、さまざまな方がいます。
そういった方と関わると、「私が悪いのだろうか」と自己肯定感が低くなったり、働く意味を見失ったりするかもしれません。

私自身、たくさんの利用者やご家族と関わり、いろんな考え方をもつ人がいることを実感しました。また、さまざまなタイプの看護師や介護職員と働いてきて、単に技術が優れているから信用されるというわけではないことにも気が付きました。

関わりが難しい利用者やご家族とどのようにしたら良好なコミュニケーションがとれて信頼関係が築けるのか、私の実体験をもとに解説します。



利用者やご家族への対応はストレスに感じやすい?

利用者やご家族への対応に悩んでいる職員は一定数います。ここで、介護労働者が抱えるストレスの状況について、介護労働安定センターがまとめたデータを紹介します。

職場や仕事について感じていることに対して、頻繁にストレスを感じている(「いつも感じる」と「よく感じる」の合計)割合が高かった項目は、「介護従事者数が不足している」が最も多く65.7%、次いで「仕事内容のわりに賃金が低い」で56.4%でした。*1

このアンケートの項目には、利用者やご家族との関わりに関するものもあります。
「認知症の入居者への対応が難しい」35.8%、「何をやってもらっても当然と思う入居者がいる」が34.4%という結果でした。「どうしても相性が合わない入居者がいる」も23.5%います。*1
「利用者やご家族との関わりは、ストレスになりやすい」とまでは言えませんが、ストレスに感じること自体は珍しいことではないことが分かります。


職場や仕事について感じていることに対して、頻繁にストレスを感じている割合「介護労働者のストレスに関する調査 結果報告書」(公益財団法人 介護労働安定センター)

引用)公益財団法人 介護労働安定センター「介護労働者のストレスに関する調査 結果報告書」

*1 公益財団法人 介護労働安定センター「介護労働者のストレスに関する調査 結果報告書」p21
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/h28_t_chousa_sutoresu_kakkah28.pdf(11MB)

利用者やご家族との関わりで学んだ、相手の思いを知る大切さ

私は看護師として病棟や在宅介護で約7年働きましたが、その中で正直「苦手だな」と思う利用者やご家族もいました。
具体的に言うと、高圧的な態度の人です。中には、命令口調だったり怒鳴る人もいました。
ここで、私が今でも印象に残っている方とのエピソードを2つ紹介します。

看護師になったばかりで、病棟に配属されて間もない頃の話です。
50代の男性で、車いすに乗っているAさんという患者さんがいました。
その方はいつも命令口調で、看護師に言いたい放題の人でした。私も何度か怒鳴られたことがあります。

日勤の日、正直「Aさんの担当になりたくないな」と思いながら出勤していましたが、そういうわけにはいきません。
検査に行くために車いすを用意して迎えに行くと怒られる、食事を運んでも怒られる。何も悪いことはしていないのに、そんな日々が続きました。
それでも担当になった日は必死に対応していたら、あるときから怒られることが少なくなりました。
ぶっきらぼうではあるものの、何気ない会話ができるようになったのです。そして、最終的にはいい関係性を築くことができました。

別の例では、訪問介護入浴で働いていたときに出会った、利用者の夫であるBさんも印象に残っています。
Bさんは、脳の障害で昏睡状態の妻を長年介護していました。
Bさんはこだわりが強く、自分のやり方で介護をしており、その通りにやらないと職員を怒鳴りつけるような人でした。
特に初めて会った職員に警戒心が強く、私も最初は「余計なことをするな」と言われました。
他の職員の中にも、Bさんが苦手だという人は多かったです。

私も最初はBさんが苦手でしたが、訪問しないわけにもいかず、とにかく「自分にできることをやろう」と淡々と行いました。
入浴後の処置はBさんと一緒に行うのですが、Bさんの手順を覚え、Bさんがやりやすいように動くように心がけました。
そうして訪問回数を重ねるうちに、処置を私に任せてくれることが増え、「ありがとう」とお礼の言葉を伝えてくれるまでになりました。

この2つの事例から私が学んだのは、「相手が何を望んでいるのか知り、受け入れること」です。

Aさんは、自由に動かすことのできない自分の体や入院生活にストレスを感じていて、そのような自分の思いを受け止めてくれる人を望んでいたのかもしれません。

Bさんは、ミスをせずに処置をしてくれる人、安心して任せられる人を望んでいたのだと思います。
長年一人で介護をしてきたことへの自信もあったでしょうし、大切な妻の処置を任せるのだから信頼できる人に任せたいという気持ちもあったのかもしれません。

もちろん、どんな理由があっても職員に対して横暴な態度をとることはいけません。
しかし、相手がどのような思いでいるのか想像し、それに応えることで少しずつ関係性を築いていけることを学びました。


利用者やご家族とうまくいかない原因は自分だけにある?

利用者やご家族との関わりがうまくいかないとき、特に怒られるなどきつい対応をされると「自分が何か悪いことをしたのかな?」と不安になるかもしれません。でも、すぐに自分を責めないでください。

前章で紹介した私の経験談を見ても分かるように、この事例では私自身が何か悪いことをしたりミスをしたわけではありません。
今考えると「こういう理由があったのだろうか」と思いますが、それも相手に直接聞いたわけではないので正しいかどうかは分かりません。
自分に原因がなくても、相手によってはスムーズに関係性を築けないこともあるのです。
「うまくいかない原因は自分のせいだ」と必要以上に責めないことが、安定したメンタルで長く働くためには必要不可欠です。

働いていると、利用者やご家族の態度に影響を受け、気持ちが揺らいでしまうことがあるかもしれません。 それは人間である以上、当然のことです。
その気持ちは事実として認めつつ、専門職としてどのように関わったらいいのか、建設的に考えていく必要があります。
具体的な方法は、次の章で紹介します。


信頼関係を築きながら利用者やご家族と関わるために

(1)病気による影響がないか確認する

気難しさや攻撃的な性格は、病気が原因の場合もあります。例えば、精神疾患である境界性パーソナリティ障害や脳梗塞による後遺症などです。その場合は、病気の特徴を踏まえた関わり方を職員間で共有しながら対応しましょう。


(2)話を受け止め、相手が求めているものを考えてみる

その人によって、支援職に求めるものは異なります。
高いスキルをもっている人に処置をしてほしい人、優しい対応を求めている人などさまざまです。
高いスキルは一朝一夕では身に付きませんし、相手が求めているもの全てを提供できるとは限りませんが、思いを受け止めたうえで関わると信頼関係が築きやすくなります。


(3)専門職として伝えるべきことはしっかり伝える

利用者やご家族と信頼関係を築くために、何でも相手の言いなりになるのは違います。
私たちは、専門職としての知識やスキルを提供するために関わっています。
もし安全に関わることや間違ったエビデンスに基づく行動などがあればしっかり伝える責任がありますし、その責任を全うすることで信頼関係が築けます。

ただし、伝える際には相手を否定するのではなく、そのような行動にいたった経緯を受け止めたうえで伝えましょう。


(4)職員同士や他のサービス事業者に相談する

関わりが難しい利用者やご家族に対しては、他の職員も悩んでいる場合もあります。
相談してみると、解決策が見つかる可能性があります。

また、他のサービス事業者に相談するのも一つの方法です。
特にケアマネジャーは、介護サービス全体を調整する役割があり、多職種の中で利用者との関わりが一番長い可能性が高いものです。
利用者やご家族の考えをよく知っているので、カンファレンスなどで会ったときに聞いてみるのもよいでしょう。


(5)時間をかけて関わる

信頼関係を築くためには、ある程度時間が必要です。
私たちも、よく顔を合わせる人に対して好感を抱きやすいように、利用者さんやご家族も会う頻度の多い職員の方が信頼しやすくなります。
「関わりが難しい」と諦めずに、時間をかけてじっくり関わる姿勢が大切です。


【まとめ】

利用者やご家族全員とよい関係性でいられたらいいのですが、一人ひとり置かれた状況や考えが違うのでそううまくはいきません。
そんなときは、自分自身を責めすぎずに、周囲を頼りながらできることをコツコツやっていくことが大切です。
自分がこの仕事に取り組む意義を感じながら、日々の業務に向き合っていきましょう。



【参考サイト】 *1
公益財団法人 介護労働安定センター「介護労働者のストレスに関する調査 結果報告書」p21
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/h28_t_chousa_sutoresu_kakkah28.pdf(11MB)

【執筆者】
浅野すずか
フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた記事を執筆。

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