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介護情報・コラム

利用者からセクハラの被害にあったらどうする?管理者が職員を守るためにできること

2024/03/28

利用者からセクハラの被害にあったらどうする?管理者が職員を守るためにできること

執筆者:浅野すずか(元看護士)


残念な話ですが、医療や介護の現場で働いている職員が、利用者や家族からセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)を受けるのは珍しいことではありません。
私も看護師として働いていた頃、セクハラにあった経験がありますし、一緒に働いていた女性職員も「自分も経験がある」という人がほとんどです。

相手が利用者や家族だと、「自分は支援者なのだから、我慢するべきなのではないか」「大事にしたら、今後の支援に支障があるのではないか」と考え、言い出せない人もいます。

職員は全く悪くありません。悪いのは、セクハラをする側です。
セクハラは嫌がらせ行為であり、被害にあった人の心は傷つき、その後の業務や人生にも悪影響が出るかもしれません。

事業所の管理者には、職員が安心して働けるように環境を調整する役割があります。
しかし対応を間違えると、職員との信頼関係が壊れ職員が離職する可能性もあります。
もし、職員が利用者や家族からセクハラされた場合、事業所の管理者はどのように対応すればいいのでしょうか?

そこで今回は、職員をセクハラ被害から守るために管理者はどのような対応をすればよいのか、一緒に考えていきましょう。



医療や介護の現場では、どのくらいの人がセクハラされた経験がある?

医療や介護で働いている人の中で、具体的にどのくらいの人がセクハラされた経験があるのか、データを見てみましょう。

以下は、厚生労働省が公開している平成30年度のデータで、セクハラに限らず身体的暴力や精神的暴力などが含まれたものですが、参考としてご紹介します。

施設・事業所に勤務する職員のうち、利用者や家族等からハラスメントを受けた経験のある職員は、サービス種別により違いはあるものの、利用者からでは4〜7割、家族等からは1~3割でした。
平成30年の1年間で見ると、利用者からのハラスメントを受けたことのある職員は、割合が高いサービスで6割程度、低いサービスで2割程度となっています。*1

こうしてみると、どのサービスでもハラスメントが起こっていることが分かります。


図表1 ハラスメントを受けたことのある職員の割合 利用者から

引用)厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf p61


図表1 ハラスメントを受けたことのある職員の割合 家族から

引用)厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf p62

では、なぜ医療や介護の現場ではセクハラが起こりやすいのでしょうか。


(1) 業務上、体の距離が近くなりやすい

医療や介護の仕事は、その業務内容から利用者との体の距離が近くなりやすいという特徴があります。
ケアの内容によっては体を密着させなければならないことも多いので、セクハラが起こりやすくなってしまいます。


(2) 個人の事情に立ち入ることが多く、精神的な距離も近くなりやすい

医療や介護のケアは身体面だけでなく、精神的なものもあります。
今不安に思っていることや悩んでいることを聞き、相手に寄り添いながらケアを行います。
さらに、利用者のケアに必要であれば、これまでの成育歴や家族間の困りごとなど、かなりプライベートな情報も聞きます。
業務として必要であるから聞くのですが、その境界線が曖昧になってしまうこともセクハラが起こりやすい要因のひとつです。


(3) 閉鎖的な環境が多い

病院の病室や検査室、利用者の自宅など、医療や介護の場面では閉鎖的な環境が多くあります。
そのため、他者からの目が少なくなることでセクハラが起こりやすく、周囲からも気付かれにくいという現状があります。


(4) ケアする側・される側という社会的ランクがあるためこじれやすい

一般的に、医療や介護職員といったケアする側の方が社会的ランクが高いと思われがちですが、状況によって変わります。
ケアされる側からすると、「病気で苦しんでいるんだから、これくらいいいだろう」という思いがありセクハラにつながるケースもあります。
またケアする側としては「このくらい我慢しなければ」と思ってしまい、言い出せないことも少なくありません。


私が実際にセクハラされた話と、先輩や管理者の対応

私は看護師として、病院や在宅介護の現場で約7年ほど働きました。
その中で、利用者や家族からセクハラされた回数は多すぎて覚えていません。
セクハラの内容は、不用意に手を握られる、体を触られるなど、身体的な接触がほとんどでした。
中には認知症で状況が判断できずに触ってしまう方もいましたが、ほとんどが故意に触ってくる方でした。

いいのか悪いのか、看護師経験が長くなるにつれて慣れてしまい、うまくかわせるようになったり気持ちの整理がつけられるようになりました。
ですが、若いころはそうはいきません。
「私が何か悪いことをしたのだろうか」「もう○○さんのところに行きたくない」「でも我慢しなければ」。そんなことを、頭の中でぐるぐる考えていました。

それでも、仕事なので行かないわけにはいきません。
つらい気持ちを何とかコントロールしながら業務に当たっていたのですが、ついに耐えきれなくなってしまい、仲のいい女性の先輩に打ち明けました。
実は利用者さんから体を触られること、どうしても嫌でその利用者さんのところに行きたくないと思ってしまうこと…。
先輩は、ただただ話を聞いてくれました。

それをきっかけに、先輩たちが私をセクハラから守ってくれるようになりました。
利用者さんに「やめてください」となかなか言えない私に代わって先輩が言ってくれたり、男性の先輩は私と利用者さんが部屋で2人きりにならないようにさりげなく一緒にいてくれました。
今振り返っても、私は本当にいい先輩たちに恵まれたなと思っています。

その数日後、直属の上司である管理者から、その利用者さんのセクハラの件で他業種の人たちとカンファレンスを開いたと話がありました。
どうやら、私が相談した先輩が管理者に話をしてくれ、管理者が利用者の担当ケアマネジャーに相談したことがきっかけで、カンファレンスが開かれたようでした。
すると、他業種である訪問介護の職員もその利用者からのセクハラ被害に悩んでいたとのこと。
カンファレンスには利用者の家族も参加し、どんな状況であってもセクハラはいけないこと、それを関係者全員で利用者に毅然とした態度で伝えていくことが決まりました。

それからは、その利用者からのセクハラはぱったりとなくなりました。
元々利用者はお話が好きで、職員にも好意的な人だったので、セクハラがなくなったあとは徐々に良好な関係を築くことができました。


一番嬉しかったのは、味方でいてくれたこと

私が利用者からセクハラされたときに一番嬉しかったことは、先輩や管理者など一緒に働く人たちが味方でいてくれたことです。

もし相談した先輩に「私も経験あるよ。よくあることだよね」と言われ、受け流されていたら、私の心は折れて看護師を辞めていたかもしれません。
実際には、私の話を受け止め、利用者に対して毅然とした対応をとってくれました。男性の先輩がさりげなく一緒にいてくれたことも、とても心強かったです。

そして管理者がケアマネジャーに話をしてカンファレンスを開いてくれたことで、利用者に関わる関係者全員が「セクハラは悪いこと」だと認識し、対応を統一できたことも非常に大きなポイントでした。
関係者全員で一貫した対応をしたことが、早い段階での解決につながったのではないかと感じます。


職員がセクハラされたときの管理者の適切な対応とは

私の事例を踏まえて、職員がセクハラされたときに管理者はどのように対応したらいいのか、まとめてみました。


(1) どんな状況であっても「セクハラは悪いこと」と、全職員で共通認識をもつ

いつ誰がどこでセクハラの被害に遭うか分かりません。
誰に対しても、どんな状況であってもセクハラは悪いことだと全員に周知しましょう。
セクハラが悪いことであるのは当たり前ですが、改めて伝えることで職員一人ひとりの意識が高まりますし、自分がセクハラされなくても周囲がされた場合に手を差し伸べるきっかけになります。


(2) 職員に声をかけ、いつも味方でいる

もしかすると、セクハラされた職員が1人で抱え込んでしまい、誰にも相談できないこともあるかもしれません。
実際にセクハラの場面を見たときはもちろんですが、そうではなくてもいつもと違う様子を感じたら、ぜひ声をかけてあげてください。

もしセクハラされたと打ち明けてくれたときは、「気のせい」や「そのくらい我慢しろ」などとは絶対に言ってはいけません。
セクハラされて「つらかった」という気持ちを受け止めてもらえることで、自分は1人ではないんだと安心できます。


(3) セクハラを防ぐ対策をする

もし調整できるのであれば、セクハラする相手と遠ざける対応をしましょう。
完全に担当を変えるのが難しい場合は、身体的距離が近くなる介助だけでも別の職員に代わってもらったり、複数の職員で対応するようにします。

セクハラする相手に直接やめるように伝えるのも大切です。
相手が患者や利用者であっても、セクハラすることは許されません。
セクハラされた職員に不利益がないように配慮しながらも、毅然とした対応をとりましょう。


必要に応じて他職種と連携する

他職種と連携し一貫した対応をすることで、セクハラをする人に対して「セクハラは悪いことである」というより強いメッセージを伝えることができます。
また、事業所内だけでは対応方法に迷う場合、よいアイディアがもらえるかもしれません。
なかなか状況が改善しないときは、他職種に相談し連携するようにしましょう。


【まとめ】

職員がセクハラされたと聞いたとき、慌ててしまいどうしたらいいか迷ってしまうこともあるかもしれません。
すぐには利用者に対する直接的な行動が起こせなくても、とにかく職員の話を聞き「あなたの味方だよ」と伝えることはできると思います。

医療や介護はセクハラが起こりやすい環境ではありますが、だからこそ大切な職員を守るための対応を考えていきましょう。


【参照サイト】
*1
参考)厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf p61


【執筆者】
浅野すずか
フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた記事を執筆。

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