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介護情報・コラム

幸せな最期を支えるために何ができる?介護職が利用者と家族に寄り添うために

2023/05/16

【コラム】幸せな最期を支えるために何ができる?介護職が利用者と家族に寄り添うために 【コラム】幸せな最期を支えるために何ができる?介護職が利用者と家族に寄り添うために

「介護の仕事をしていると、死期が近づいている利用者さんと関わる機会が少なくありません。
看護師だった私も、たくさんの終末期にある利用者さんと関わらせていただきました。
中でも印象的だったのは、病棟から訪問入浴介護に転職して2、3ヶ月がたった頃に出会った、80代のAさんという方です。

あれから10年以上たった今もAさんのことを鮮明に覚えていますし、Aさんとご家族から学んだことはその後私が仕事をするうえでの軸となりました。

私が学んだこととは、「利用者とご家族が幸せな最期を迎えるために、自分は何ができるのか」 私の実体験を、ぜひ皆さんにもお伝えしたいと思います。



状態がよくない中での入浴介助で「亡くなったのは自分のせい」と後悔

週に1回、訪問入浴介護のサービスを利用していたAさんは寝たきりでした。体温や血圧は落ち着いていて、皮膚状態もよく、特別に医療的な配慮が必要な人ではありません。口数は少ないですが、話しかけると穏やかな表情で笑顔を見せてくれることもありました。

ある日私が訪問すると、Aさんの様子がいつもと違うことに気が付きました。ウトウトしていて、話しかけてもあまり反応がありません。体温を測ると37.0℃の微熱、おむつをひらくと血尿が出ていました。訪問介護と訪問看護の記録を確認すると、数日前から同じような状態が続いていました。

このことから、私はAさんが入浴するにはリスクが高いと判断し、代わりに清拭や足浴など体に負担が少ないケアがいいのではと考えました。それをご家族に伝えると、「大丈夫なので、入浴させてほしい」と言われます。

「ですが…」と、私は改めてAさんの状況について説明しましたが、ご家族は「入浴させてください!」の一点張りでした。


私は一緒に訪問していた介護職員と相談し、できるだけ体への負担が少なくなるように手早く入浴を行うことにしました。

その2日後、ケアマネジャーから連絡があり、Aさんが亡くなったことを知りました。私は、自分が入浴させたせいでAさんが亡くなったのだと、心の底から後悔しました。同僚や先輩たちは「あなたのせいじゃないよ」とたくさん励ましてくれましたが、全く受け入れられません。

また「家族の強い要望だったんだから、仕方ないんじゃない?」と言う人もいましたが、それは絶対に違うと思っていました。なぜなら、私は看護師で「利用者さんが安全に入浴できるか判断する」という職務があるからです。それを「家族が希望したから」という理由で入浴を許可するのであれば、看護師である私が訪問する意味がありません。

その後もしばらく落ち込んだ気分を引きずりながら、なんとか日々の業務をこなしていました。


看取り

利用者さんが亡くなったあと、ご家族の話から学んだこと

Aさんが亡くなってから1ヶ月ほどたった後、Aさんのお宅に伺う機会がありました。Aさんが亡くなってサービス利用料が口座から引き落とせなくなったので、直接いただく必要があったからです。

お宅に伺うと、ご家族から「もしよかったら、線香をあげてくれませんか?」と言われ、お線香をつけさせてもらうことになりました。その後、リビングに通され「どうぞ」とお茶をいただきながら、Aさんが亡くなったときの様子を聞きました。

亡くなる前日の夜、ご家族がAさんに何を食べたいか聞いたところ、大好きなラーメンを食べたいと言ったこと。

少ない量だったけれど、「美味しい」と言って全て平らげたこと。
翌朝、ご家族がAさんの様子を見に行くと、穏やかな表情で眠るように亡くなっていたこと。
亡くなる前に入浴できて、きれいな体であの世に送り出すことができて感謝していること。

ご家族は、これまで見たことがないような晴れやかな顔で話し、「本当にありがとうございました」と感謝の気持ちを伝えてくれました。
このお話を聞いて、落ち込んだ気分がフッと軽くなったのと同時に、大切なのは「命の長さ」だけでなく「どういう最期を過ごしたか」なのだと学んだのです。


利用者は「最期の過ごし方」で何を望んでいるのか

利用者が人生の最期をどのように過ごしたいと考えているのか知るひとつの方法として、以下のデータを紹介します。

厚生労働省が一般国民と医療・介護従事者に対して平成4年以降5年おきに行っているもので、人生の最終段階における医療に対する意識やその変化を把握するための調査です。

平成29年度に行われたデータで「どこで最期を迎えたいかを考える際に、重要だと思うこと 」(複数回答)という問いに対して一般国民の回答を見てみると、「家族等の負担にならないこと」が73.3%と最も多く、次いで「体や心の苦痛なく過ごせること」57.1%、「経済的な負担が少ないこと」55.2%、「自分らしくいれること」46.6%と続きます。一方、「可能な限り長生きすること」は5.4%でした。*1

この結果から、人生の最期を過ごすときには「長生きすること」よりも「家族の負担を最小限にしたい」「苦痛がなく穏やかに暮らしたい」といったことの優先順位が高いことが分かります。

厚生労働省 「平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査 結果(確定版)」


だからといって、「命を優先させる必要はない」という意味ではありません。その人にとって優先させたい価値がことなること、そして最期のときには命の長さよりも大切にしたい価値観があるということです。

最期の時間をよりよいものにするために、専門職ができること

利用者に残された最期の時間をよりよいものにするために、専門職は何ができるのでしょうか?私の経験から学んだポイントを3つ紹介します

(1)利用者やご家族がどんな最期を過ごしたいのか知る

Aさんと出会うまで、私が看護師として最優先することは「命を守ること」「安全であること」でした。もちろん大事なことですが、終末期にある方にとっては残りの人生をどのように過ごすのかも重要です。

まずは、利用者やご家族がどのような思いをもっているのか知りましょう。もし直接聞く機会がなければ、ケアマネジャーに確認するのもおすすめです。

(2)利用者やご家族の思いを叶えるために何ができるのか、職員同士で共有する


どんなときも安全を守ることが基本ですが、そのうえで、利用者やご家族の思いを叶えるために自分たちには何ができるのか考えましょう。
例えば、入浴を例に考えてみます。入浴が好きな方の場合は、リスクも説明したうえでできるだけ安全に入浴できる方法を実施するのもいいでしょう。反対に、入浴にこだわっておらずある程度清潔が保てればいいと考えている方には、清拭や足浴など他のケア方法を検討するのもひとつの方法です。
そのときの状況に合わせて柔軟にサービスを提供することで、利用者やご家族の人生の満足度が高まります。

(3)利用者さんに関わる多職種と連携する

利用者やご家族に関わるのは、自分たちだけではありません。訪問診療や訪問看護、ケアマネジャー、訪問介護など、さまざまな専門職が関わっています。そういった多職種と連携することで、より利用者やご家族の思いに応えることができます。

私が実際に経験した、多職種との連携のエピソードを紹介します。

ある訪問診療の医師からは、「この方は入浴が大好きで、ご家族もご本人の好きなように過ごしてもらいたいと思っている。多少調子が悪くても、よっぽどでない限りは入浴させてほしい」と言われたこともありました。そして「何かあったら連絡してください。すぐに行きますから」と言ってくれたことは、とても心強かったことを覚えています。

また別の例では、訪問入浴のあとすぐに訪問看護のスケジュールをケアマネジャーが組んでくれました。訪問看護師からは「入浴後の状態確認やケアは、私たちがやるので大丈夫ですよ」と言ってもらい、安心してサービスを行うことができました。

他には、利用者の状態を共有するノートがあったので、自分が訪問したときの状態を記入し共有していました。場合によっては電話も活用し、常に最新の利用者の状態を共有することが大切です。


まとめ

終末期にある利用者やそのご家族の思いに応えるために大切なことは、利用者やご家族の思いを知ったうえで自分たちに何ができるのか常に考えること、そして多職種と連携しチーム全体で支えるという意識です。非常に責任がありますが、最期のときを支えることができるやりがいのある仕事です。専門性を高めながら、いつも利用者やご家族に寄り添う気持ちを忘れずに、日々の業務に取り組みましょう。



【参考サイト】
*1
参考)厚生労働省 「平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査 結果(確定版)」 p27

【執筆者】
浅野すずか
フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた記事を執筆。


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