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介護情報・コラム

介護事業の経営コラム7:「ヒトの課題」その2―LIFE時代の人材育成を考える

2022/11/14

介護事業の経営コラム7:「ヒトの課題」その2―LIFE時代の人材育成を考える
このシリーズは、高頭 晃紀先生(日本ケアコミュニケーションズ 客員コンサルタント)に、介護事業の経営者としての目線で寄稿いただきました。
第7回は前回に引き続き「ヒトの課題」、高頭先生からのメッセージをお届けします。

create 現場における「ヒト」の課題とは

 前回に続き「ヒト」の課題について考えます。

 前回指摘した介護事業における「ヒト」の課題は、「ヒトの課題」とは、優秀な人が採用できないというものではなく、

・採用した人が辞めてしまう

・育たない、成長しない、一人前にならない

・新技術が入らない

・今時の介護の考え方を取り入れられない

・専門性が育たないなど

「人手から人材へ」の成長の仕組みがうまく回っていないことにあるとしました。

 これらは、すべて個々の職員側に原因があるのではなく、組織の体制や機能などに原因があると考えた方が、結果的に課題解決につながります。
 なぜならば、個々の職員に原因があると考えた場合、結局「優秀な人材の採用」という非常にハードルが高い課題の解決に取り組まなくてはいけなくなるからです。

 実はコロナ禍以降、介護業界全体としては介護職員の退職率は下がっています。
コロナ禍の中で、社会全体としては、退職率が上がり、大量退職時代の訪れを懸念されているにもかかわらず、介護業界だけ退職率が低下するという不思議な現象が起きています。
同時に、介護業界での採用の難しさ・厳しさは、以前より一層増しているようです。
この現象の原因については、諸説ありますが、ここでは触れません。

 上記の現実・現状を踏まえた上で、さらにコロナ禍での現場の状況を見てみると、

・集合研修機会の激減

・外部研修への出席の激減

・職員間のコミュニケーション機会の激減

・消毒やゾーニングなどによる作業量の増加

上記は、すべて介護職の能力向上に対して、不利な環境を作る作用があると考えて良いでしょう。

create LIFE時代の人材育成

 同時にコロナ禍中に行われた令和3年の介護報酬改定においては、LIFE関連加算が新設されました。
LIFE関連加算の算定には、ケアによるアウトカムの向上、アセスメント〜ケアプランの精緻化、LIFEフィードバックを踏まえたPDCAサイクルの確立など、単なる業務の増加にとどまらず、個々の職員の能力と組織力が、必要とされます。
 この傾向は今後もより強まり、LIFE関連加算の算定度合いが、事業所の収入への影響力を増していくと考えられます。

 これは、介護保険制度開始時点での考え方=「介護の品質の担保は、外形基準で行う」(職員の配置数や専門職の配置数などと設備などの基準を満たしていれば、一定の品質が保たれていると仮定する)から、徐々に「介護の品質はアウトカム(成果)で評価する」領域を増やしてきた流れの、一つの完成に向かうことと理解すべきです。(LIFEだけで完成するわけではないと思われます)

 従って、今後の事業所の大きな課題は、人集め(外形基準を満たすため)だけでなく、アウトカム(成果)を出せる組織づくりということになります。

 強調したい点は、多くの人が、組織づくりというと、部長とか課長、主任、リーダーなどの役職を設置し、組織図を整えることのように考えがちですが、この場合、そんなことでは全く機能しないと考えてください。

 重要な点は、ヒトが育つ組織、ヒトが居着く組織、ヒトが学ぶようになる組織、組織内の関係性が安定している組織に、職員自身が変えていける組織にすることです。

 そのためには、

・業務の中に学習環境を組み込むこと

・学習の手段・ツールを揃えること

・教える側は教え方を学び、教わる側は学び方を学ぶ必要があること

・上記を経営課題として、優先的に取り組むこと

が必要になります。

つまり、人材育成、成長、学習の基本的理解とは、介護現場においては、独学での能力向上に期待するのではなく、組織的に学ぶ体制と体系を持つ必要があると理解することです。

 次回は、具体的に、「学ぶ体制と体系を持った組織」をつくるには、どのような方法があるかについて解説いたします


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講師:高頭 晃紀(日本ケアコミュニケーションズ 客員コンサルタント)
介護福祉経営士。株式会社日本ケアコミュニケーションズ 客員コンサルタント。
1998年より、ケア管理システムをはじめ、介護保険関係のシステム開発を数々手掛ける。
介護施設への経営(介護福祉施設の稼働率向上、在宅サービスの利益向上)・ケア(利用者の健康向上、自立支援)のコンサルティング業務も数多く、講演活動も精力的に行なっている。
社会福祉法人虐待再発防止第三者委員を歴任。
近年は特に介護事業の人材定着、能力向上プロジェクトに注力している
高頭晃紀先生(日本ケアコミュニケーションズ チーフコンサルタント)

著書
『今日から使えるユニットリーダーの教科書』
『100の特養で成功!「日中おむつゼロ」の排せつケア』
『あなたを助ける 介護記録100%活かし方マニュアル ただ書くだけの記録から ケアを高める記録に』(以上メディカ出版)
『介護現場のクレーム・トラブル対応マニュアル』(ぱる出版)
『介護事業経営・運営のノウハウ:これで失敗しない!(共著 同友館)
『3ステップで目指せ一流 ホンモノの介護職になろう: ステップ1 駆け出し編 』
『3ステップで目指せ一流 ホンモノの介護職になろう: ステップ2 本物になろう編 』(339BOOKS: Kindle版)
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