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介護情報・コラム

介護事業の経営コラム5:現場における「モノ」の課題

2022/09/06

介護事業の経営コラム5:現場における「モノ」の課題
このシリーズは、高頭 晃紀先生(日本ケアコミュニケーションズ 客員コンサルタント)に、介護事業の経営者としての目線で寄稿いただきました。
第5回は仕事に必要な「モノ」、高頭先生からのメッセージをお届けします。

create 現場における「モノ」の課題

 全く道具や材料がいらない仕事というのは、多分ほとんどないと思います。もちろん、原材料が全くいらず、道具もほとんどいらないように見える仕事というのはあるでしょう。昔の作家さんなどは、原稿用紙と鉛筆(あるいは万年筆)があれば、それでよかったようです。しかし現在では、作家さんであってもパソコンなどを使いこなしている方がほとんどのようですし、なにより創作のための、取材や情報が重要になっていますから、大量の資料を必要としているようです。

 暮らしでは、持っているものを減らす「断捨離」から、モノを極端に少なくするミニマリストの暮らしが注目されています。 我々は普通にしていると、無駄なもの、不要なものを溜め込む傾向があるようですので、無駄なもの、不要なものを持たないという点では、僕個人は大いに賛同できます。なかなか実現できてはいませんが。

 ただし、仕事においては、生産性や効率、便利を実現してくれる「モノ」は、適切な品質と適切な価格のものを、適切な量(在庫)が確保されていて、かつ、災害時などの事業継続に必要な備蓄が用意されていることが、重要です。

 「経費削減」は、絶対にすべきなのですが、「安物買いの銭失い」になったり、かえって労働力や労働時間の増加、あるいは安全面、衛生面のリスク等につながるような、「見た目の経費削減」、「無意味な経費削減」には、気をつけなくてはなりません。

 例えば、以下はコロナ禍以前の実話です。

ある高齢者施設での出来事ですが、ある日理事長が職員用のトイレに入ると、職員が手洗い後、ペーパータオルを何枚も使い手を拭いていて、明らかに無駄遣いしているのを見かけたようでした。その場では、何も注意をしなかったようですが、翌日、施設長宛のメールで、そのエピソードとともに、施設内の洗面所などのペーパータオルを撤廃するよう「怒り」の指示がありました。

 施設長からご相談がありましたので、「お怒りで過剰反応されていると思われますので、メールではなく、理事長にお会いして、無駄遣いはやめさせるけれども、衛生管理面から考えると、ペーパータオルは必需品だと、専門的見地から申し上げてはいかがですか?なんなら看護師長に同席してもらったら説得力が増すと思いますよ。看護師長が、「ドクターが知ったら、私が怒られます」くらい、言添えてもらったらいいのでは?」とお答えしました。
 私としては、理事長のお気持ちやお怒りはよくわかるのです。小さな無駄遣いの積み重ねが収益をどれだけ圧迫するのか、実際に経営をしていると、とてもよく実感できるのです。
 残念ながら、ペーパータオルが一枚いくらかかっているか、多分現場の職員は知らないどころか、意識をしたこともない人が大半でしょう。  介護用ベッド、車椅子、おむつなど、備品・消耗品にかかる経費の見直しは、経営上の課題になります。

 しかし、無駄遣いと同時に、それらの品質や機能が適正なのか、稼働状況が適正なのかというのも、「課題化」しなくてはなりません。

 経費節減の名の下に、品質を落としたり、修理を怠ったりしていれば、「ヒト」の無駄遣いが発生するリスクが高まります。早めに修理していれば安く済んだのに、手遅れで全面買い替えなどとなれば、「カネ」の無駄遣いになることは言うまでもありません。

 「モノ」の課題とは、経費削減ではなく、「費用対効果」の適正化です。
 「モノ」の費用対効果が高ければ高いほど、生産性は向上します。

 もちろん「費用対効果」の測定は、難しい場合が多いのは事実ですが、実際に使用するスタッフを巻き込んで、試行錯誤しながら、定期的に費用対効果の測定をしていくべきなのです。
新製品が必ずしも値段が高くなるとは限りませんし、また新製品が、より費用対効果が上がっているとも限りません。高価なものが常に良いとは言えないのと同様です。

例えば、「おむつ代」が去年に比べて増加しているという「経営上の課題」を解決するために、「おむつを低価格のものに単純に切り替える」では、経営の専門性も介護の専門性もありません。レベルが低すぎる発想です。


・去年と今年のおむつ使用利用者の状態

・去年と今年の職員のおむつケアの技術力

・そもそも、使用しているおむつの性能を十分に発揮できているケアをしているのか?

などで、原因を探った上で、その原因へのアプローチを考え、さらに

・結果としておむつの経費が下がる、同等でより安価なもの、高価だが使用量減によって経費が下がるものなどが、他にないかリサーチする

という取り組みをするのが、経営と介護の専門性の力の見せ所です。

 経営課題としても、現場の業務課題としても、「モノの課題化」とは、「費用対効果測定」を行い続け、「モノ」を見直し続けること。  この重要性について、解説いたしました。

 次回は、「ヒトの課題」=人材資源の稼働率向上とは人材の育成・成長であるということについて、解説してまいります。



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講師:高頭 晃紀(日本ケアコミュニケーションズ 客員コンサルタント)
介護福祉経営士。株式会社日本ケアコミュニケーションズ 客員コンサルタント。
1998年より、ケア管理システムをはじめ、介護保険関係のシステム開発を数々手掛ける。
介護施設への経営(介護福祉施設の稼働率向上、在宅サービスの利益向上)・ケア(利用者の健康向上、自立支援)のコンサルティング業務も数多く、講演活動も精力的に行なっている。
社会福祉法人虐待再発防止第三者委員を歴任。
近年は特に介護事業の人材定着、能力向上プロジェクトに注力している
高頭晃紀先生(日本ケアコミュニケーションズ チーフコンサルタント)

著書
『今日から使えるユニットリーダーの教科書』
『100の特養で成功!「日中おむつゼロ」の排せつケア』
『あなたを助ける 介護記録100%活かし方マニュアル ただ書くだけの記録から ケアを高める記録に』(以上メディカ出版)
『介護現場のクレーム・トラブル対応マニュアル』(ぱる出版)
『介護事業経営・運営のノウハウ:これで失敗しない!(共著 同友館)
『3ステップで目指せ一流 ホンモノの介護職になろう: ステップ1 駆け出し編 』
『3ステップで目指せ一流 ホンモノの介護職になろう: ステップ2 本物になろう編 』(339BOOKS: Kindle版)
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